POSTED BY 青山沙羅掲載日 MAR 14TH, 2021

【世界のニューノーマル最前線・NY】NYCの不動産は今が買い時なのか

アメリカ合衆国ニューヨーク在住のフリーランスライター青山沙羅が、現地のニューノーマルな生活をルポする当連載。
コロナ禍前は世界中の企業がオフィスを構えることを夢に見て、世界中の人が住むことに憧れたニューヨークシティ。今回は、コロナ禍により空前の空室率、市場価格が値下がっているニューヨークの不動産について。

コロナ禍により、マンハッタンから人影が消えた

2020年3月12日にニューヨーク市はコロナ禍による非常事態宣言を発出。公立学校は閉鎖、オフィスワーカーは自宅勤務になり、医療従事者や食料品店勤務のエッセンシャルワーカー以外は自宅待機を求められました。

ロックダウン以降、感染者数が爆発的に増え、NYCの感染率は世界最多に。感染を怖れ、多くのニューヨーカーがNYCから去りました。2020年5月15日のニューヨークタイムズによると、富裕層が住むアッパーイーストサイド、ソーホー、ウエストビレッジ、ブルックリンハイツなどからは、居住者が40％以上。富裕層の多くがNYCから逃げ出しました。

The Richest Neighborhoods Emptied Out Most as Coronavirus Hit New York City – The New York Times 2020年5月15日

マンハッタン（NYC）の空室率は

2020年7月24日当時　マンハッタンユニオンスクエア　賃料が高いエリアでテナントが去り空室に　
[Photo by Hideyuki Tatebayashi ]　Do not use images without permission.

2021年1月現在　約12,500件が空室（前年比の170％増）

コロナ禍以降一気に”For Rent（テナント募集）”が目立ったマンハッタンの不動産物件。現在はどのようになっているのでしょうか。ニューヨークの大手不動産会社Elliman社のデータ（2020年11月〜2021年1月の3カ月）のデータを参照してみました。

【2021年1月】空室12,477件　前年比170.0％増（2020年1月　4,610件）
【2020年12月】空室13,718件　前年比172.0%増（2019年12月　5,043件）
【2020年11月】空室15,130 件　前年比180.3% 増（2019年11月　5,398件）
ニューヨークの大手不動産会社Elliman社のデータによる

2021年1月のデータで、マンハッタンの空室は約12,500件。感染を恐れ、仕事がリモートワークになり、ニューヨーク市外や郊外、また近郊の州へ引越しした人が多いためです。空室は前年比170.0％増ですが、2020年11月〜2021年1月の３カ月間で比較してみると、2020年11月が下げ止まりで、以降は少しずつ回復傾向に見えます。

マンハッタン（NYC）の不動産市場平均価格は

2021年1月現在　家賃は前年比の約20％安

2020年11月〜2021年1月の3カ月間のデータで、マンハッタンの家賃の市場平均価格は、前年比約20％安。

【2021年1月】平均価格$2,812　前年比19.0％安（2020年1月　$3,472）
【2020年12月】平均価格$2,800　前年比17.3％安（2019年12月　$3,387）
【2020年11月】平均価格$2,812　前年比21.7％安（2019年11月　$3,502）
ニューヨークの大手不動産会社Elliman社のデータによる

空室が増えたため、かつての強気な売り手市場から買い手市場になり、家賃は下がっています。この機会に、マンハッタン内で今までより広い住居に住み替えた人もいます。

■参照
Elliman Report 2021年1月
 Elliman Report 2020年12月
 Elliman Report 2020年11月

NYC不動産のプロに実際のところを聞いてみた

実際には2021年2月現在どのような状況なのか、ニューヨーク市で不動産の仕事に携わって約20年の松崎晴彦氏に、お伺いしてみました。

米大統領選後から、アパートの空室が減少している

2019年に比べてコロナ禍以降、空室率増加、市場平均価格は下がっていますが、2020年11月が下げ止まりで、12月からやや回復しているように見えます。ニューヨーク市から郊外や他州への移動は一段落したのでしょうか。

実際に物件や人が動いているのは感じますし、大統領選の後は特にアパートの空室が減っています（先週まで空いていた物件が、今週問い合わせたら既に契約済みになっていた、など）
ただ、郊外の一軒家や住宅は今も値は上がっているようです。郊外へ向かう組、今がチャンスだとマンハッタンへ戻ってくる組、所得断層ははっきりと分かりませんが別れているようですね。人が動き始めたのは間違いありません。

レストラン物件の契約が増えだした

不動産価格が下がっているので、投資用に買っている人もいるようですが、どのような人たちでしょうか。

個人でもいらっしゃいますが、法人で購入される方も多いです。
住居用ではなく、投資用であれば、今後の空室率（コロナにより予測不能）をそこまで気にしなくてもいい方、余程資金に余裕がある方に限ると思います。

レストラン物件などの契約も増えています。こちらも体力のある企業は購入される方も多いですね。

リモートワークにより、不要になったオフィススペースはどうする

リモートワークにより商業物件の空室率が増えたので、商業物件を住宅物件に改装するパターンもあると聞きましたが、実際にありますか。

これはかなり大きな問題だと思います。オフィススペースが必要では無くなったために今後のスペースの活用転換が必要です。

今のところ大きな話は聞きませんが、小売りやレストランオーナーが倒れた後は大家業が危ないのでは、と言われていますね。そういったスペースの改善、転用のために今後はNY市では法改正も提案していくようです。

コロナ禍以降、値上がりした郊外物件

NY郊外ウエストチェスター郡　ファミリールーム（写真はイメージです）　Dominick Corrado / Shutterstock.com

この先のニューヨークの不動産の見通しは

今が買い時だと考えている方は多いと思いますし、金利も安いので間違いでは無いと思います。ただ体力、余程の資金やしっかりとした今後のプランが無い限りは高い買い物はリスクではないでしょうか。

元々コロナ前から郊外で家の購入を考えていた方は「コロナで競争率がいきなり高くなり、売値よりも全然高いオファーが沢山入るので自分の資金では買えない」とぼやいています。数年後に、その家の価値がいくらになっているかはまったく見当もつきません。テキサスの不動産高騰もニュースになりますが、こちらも買いも売りも今のうち、という風潮もあるようです。

NYと東京の状況の違いは

東京は、都心部でも元々空室率が高め。オープンマーケットではなく、不動産会社が管理しているために、正確な空室率も分かりにくいです。NYは、ほぼオープンマーケットであり、コロナ禍以前の空室率は通常2％以下。今後人口が減る日本、反対に人口が増えるアメリカの傾向もあり、投資に関しても今まで以上にアメリカが注目されています。

2020年11月〜12月頃から、NYCクイーンズ区の自宅近所の空き家や空室（2020年夏頃が空室のピークだった）が、知らぬ間に埋まっていました。ワクチン接種が始まり、コロナ禍からの回復への道程ではあるものの、NYの不動産が少しずつ動き始めている印象があります。