POSTED BY アンダルシア掲載日 JUL 28TH, 2021
【論考】アフガニスタンが再びテロの温床と化す恐れ~国際社会の関与が必要
比較政治や国際政治経済を専門とする政治学者の筆者が、世界情勢の「今」を論考する当シリーズ。今回は、米国のアフガニスタン撤退を機に懸念される治安悪化の可能性と、国際社会の関与の必要性について考える。
アフガニスタンから撤退した米国の本音とは
バイデン大統領はアフガニスタンからの米国撤退を予定より早く進め、中国への対抗を強化しようとしている。
バイデン大統領は2021年7月8日、駐留米軍の撤退作業を同年8月末までに完了させると発表したが、そのなかで同大統領は、「アルカイダの打倒と9.11のような再発防止は徹底された」、「米軍撤収はもっと早く実施されるべきだった」、「次世代の米国人をアフガンには送らない」、「アフガンの国家建設はアフガン国民の権利と責任である」、「中国など新たな脅威に対応しなければならない」などとも述べた。アフガン政策での演説で中国を強調することはこれまでになく、バイデン政権の本音が出た形となった。
アフガニスタンは再びテロの温床となるか
しかし、専門家の間では、アフガニスタンの治安がさらに悪化するとの見方が圧倒的に強く、再びテロの温床と化す恐れも指摘されており、引き続き国際社会の関与が必要な情勢と言っていいだろう。今後のアフガニスタン情勢で懸念されるポイントをいくつか次に記してみたい。
まず、バイデン大統領が米軍の完全撤退を春に表明して以降、これまでのタリバンの動きを見てくると、米軍(を中心とする外国部隊)のマンパワーが縮小するなかで、タリバンが徐々に攻勢を仕掛けることができているのではなく、米軍撤退という行事に合わせてタリバンが意図的に攻勢を仕掛けているのが現状である。
要は、それだけタリバンには軍事的な余力があるということで、タリバンとの戦闘で逃亡したり、タジキスタンへ避難したりする政府軍の状況を見ると、両者には軍事力で圧倒的な差がある。タリバンが最近になって急速に支配地域を拡大していることからも、それは事実であろう。たとえば、次を参照されたい(https://www.longwarjournal.org/mapping-taliban-control-in-afghanistan)。
過去の教訓と中国との結びつき
一方、タリバン幹部などは声明の中で「今後も外交使節団や国際NGO、外国人を標的にすることはない」、「国際NGOなどが純粋にアフガニスタンの復興に貢献することはタリバンの利害に一致する」などと語っている。
コロナ禍でも、タリバンは支配地域の住民たちに医療や食糧支援を実施するだけでなく、防護服を着たタリバンのメンバーが新型コロナウイルスの症状を訴える市民に検査を実施たり、感染予防の説明会を開いたりしている。タリバンとしても、住民からの支持拡大は自らが政治的正当性を得るために非常に重要なことである。
また、タリバンは1996年から2001年にかけて実権を握っていた際(タリバン政権の際)、諸外国との関係構築が十分でなかったことが米軍の介入を招いたとの教訓もあることから、仮に今後タリバンが実権を握ることがあれば、おそらく前回以上に諸外国との結び付きを強化してくるだろう。特に、表面的には中国との関係強化に出る可能性もある。
タリバンからの離脱による治安悪化の懸念も
しかし、治安は別問題だろう。タリバンといっても1つで固まっているわけではなく、米国との和平を進める穏健派もいれば強硬派も根強く、今後はタリバンの中での権力闘争が激しくなり、それが治安悪化に繋がる可能性がある。特に、強硬派の中ではアルカイダと関係を密にする戦闘員も多く、タリバンとアルカイダの関係を切ることは事実上難しい。また、2014年のイスラム国の台頭以降、アフガニスタンではイスラム国ホラサン州がハザラ族など主にシーア派権益を狙ったテロを繰り返しているが、タリバンから離脱してホラサン州に参加するメンバーも多い。
米軍が完全撤退して、すぐにアフガニスタンがテロの温床になるわけではないが、治安悪化の長期化が再びテロの温床を招き、テロの脅威がアフガニスタンを超えて国際的に高まる恐れも排除はできないだろう。現在、主要国の焦点は中国になっている。しかし、主要国の関与が薄まればアフガニスタンは間違いなく混乱に向かう。引き続き、国際社会の関与が必要である。
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アンダルシア | |
政治学者 専門分野は比較政治、国際政治経済。特に近年は米中関係や経済安全保障などの日本の国益を左右する研究に従事する。また、学術研究に留まらず、NHKや共同通信、朝日や日経、産経など大手メディアで解説なども行う。 |
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