POSTED BY アンダルシア掲載日 AUG 25TH, 2021
【論考】アフガニスタンは再びテロの温床となるか~在留米軍撤退の影響とは
比較政治や国際政治経済を専門とする政治学者の筆者が、世界情勢の「今」を論考する当シリーズ。今回は、アフガニスタン在留米軍の撤収によるタリバンの掌握とそれが起因するテロの温床化、また、他の組織・地域の危険性も合わせて考えてみる。※写真はすべてイメージです
反政府勢力「タリバン」のアフガニスタン掌握
アフガニスタンで反政府勢力タリバンが首都カブールを掌握し、実権を握ることになった。バイデン大統領は2021年4月、アフガニスタン在留米軍を2021年9月11日までに完全撤退させることを表明したが、それ以降、タリバンは北部や南部の国境地帯などを次から次に政府軍から奪還し、あっという間にカブールまでを掌握してしまった。
バイデン大統領もそのスピードには驚いたというが、今後、タリバン政権が20年ぶりに復活するとみられるなか、同国は再びテロの温床に逆戻りしてしまうのだろうか。
テロ組織との関係断絶なるか
これについて現在のところ、タリバンはテロの温床を作らせない方針を発表している。2001年12月に崩壊した旧タリバン政権では、アルカイダとの癒着が対テロ戦争を招き自らの崩壊に繋がったので、タリバンとしては同じ過ちを繰り返さないという立場を堅持している。女性の権利向上にも意欲を示すなど、諸外国との関係構築・強化を強く意識しているように映る。
とはいえ、タリバンといっても、米国との和平会議を進める穏健派もいれば、アルカイダなどのイスラム過激派と関係を密にする強硬派も存在し、その中には多様な意見、多様な人々がいる。よって、タリバン幹部がテロ組織との関係断絶を強調したとしても、実際それが進まない可能性も十分にあり、タリバン政権の長期化がアルカイダなどの活動拡大に繋がる恐れがある。
国連安全保障理事会は、アフガニスタンにアルカイダのメンバーが400人から600人存在すると近年発表している。
テロの温床は他組織・地域にも可能性が
しかし、我々が理解しなければならないのは、テロの温床はアフガニスタンだけに限定される話ではないことだ。アルカイダがこの20年間で幹部の殺害や拘束により組織的に弱体化したのは間違いない。
一方で、「インド亜大陸のアルカイダ(AQIS)」、イエメンの「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」、北アフリカで活動する「マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」、ソマリアの「アルシャバブ(Al Shabaab)」、マリを中心にサハラ地域を拠点とする「イスラムとムスリムの支援団(JNIM)」、シリアの「フッラース・アル・ディーン(Hurras al-Deen)」など、アルカイダを支持する武装勢力は依然として各地で活動しているのだ。
また、イスラム国というと中東のシリアやイラクで活動していたイメージがあるが、現在でも彼らは引き続きテロ活動を続けるだけでなく、アフガニスタンで活動する「イスラム国のホラサン州」のように、フィリピンやインドネシア、バングラデシュ、パキスタン、イエメン、エジプト、モザンビーク、ナイジェリアなど、各地でイスラム国系組織が活動している。
広い視野を持って情勢注視の必要がある
要は、こういった国々が次のテロの温床となる可能性は十分にあり、国際社会は広い視野を持ってテロ情勢を観ていく必要があるのだ。たとえば、東アフリカの突先にあるソマリアやアラビア半島南部にあるイエメンは、アフガニスタンと同じように政府のコントロールが全土に及んでおらず、勢力間での戦闘が絶えない。
そのような土地はアルカイダなどのテロ組織にとっては魅力的な隠れ蓑となる。現在はアフガニスタン情勢に世界の注目が集まっているが、他の国々への関与も決して忘れてはならない。
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アンダルシア | |
政治学者 専門分野は比較政治、国際政治経済。特に近年は米中関係や経済安全保障などの日本の国益を左右する研究に従事する。また、学術研究に留まらず、NHKや共同通信、朝日や日経、産経など大手メディアで解説なども行う。 |
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