POSTED BY 林 美由紀掲載日 FEB 16TH, 2021
発達障害当事者の声からうまれたノート【開発者に聞くイノベーション探訪】
世の中には「アップサイクル」や「サスティナブル」、「SDGs」などの言葉が台頭し、世界中のさまざまな分野で努力が行われていますよね。そこで当シリーズでは、毎回、クラウドファンディングなども活用しながら新たなイノベーションを起そうとしている人・モノ・体験にクローズアップして、その魅力をお届けしていきます。今回は、発達障害当事者の声からうまれたノート「mahora(まほら)」を開発した大栗紙工株式会社広報の大栗さんにお話を伺いました。
目次
「mahora(まほら)」開発に込められた想い
昭和5年に大阪で創業し、帳簿の製造販売を行っていた老舗メーカー「大栗紙工株式会社」。昭和38年に学用ノートの生産を開始し、これまで大手文具メーカーの製品の受託生産を行ってきました。その中で「いつかは自社のブランドを作り、世に出したい」という夢を持ち続けていたのだのだそう。
そんな時、発達障害当事者の支援団体である一般社団法人「Un Balance(アンバランス)」と出会い、ノートに使いづらさを感じている発達障害者の方がたくさんいらっしゃることを知ったといいます。
そこで、長年ノート製造に携わってきたからこそ、ノートに関する困りごとを少しでも解消したいとの想いから開発した商品が、発達障害当事者の100名の声から生まれた目にやさしいノート「mahora(まほら)」です。
発達障害の方々のノートの3つの困りごと
60年近くノートの生産を行ってきたものの、新商品の開発は初めてだったという大栗紙工株式会社。ノートを開発するにあたって、発達障害当事者の方々にノートに関する困りごとのヒアリングやアンケートを行い、その大きな問題点を洗い出すと大きく「3つの困りごと」が浮かび上がったのだそう。
ノートからの光の反射がまぶしい
書いている途中で行を見失う
罫線以外の情報が気になり集中できない
困りごとを解決する!
ノートからの光の反射がまぶしい
「白い中紙だと光の反射がまぶしく、使いづらい」という課題を解決するために、まず13色の中紙のサンプルを用意。当事者の方々にまぶしさが気にならない好みの色を選んでもらったのだそう。
「mahora」には、白い紙に比べ光の反射を抑えられた国産色上質紙を採用。さらに、通常のノートに使われている中紙に比べ約10%程度厚くなっているため、強い筆圧で書いてもへこみにくく、またすべりが良いので書きやすく、消しゴムで消す時にも紙がくしゃくしゃにならずきれいに消すことができます。
書いている途中で行を見失う
「中紙に印刷されたラインがわかりにくく、書いているうちに行が変わってしまったり歪んでしまったりすることがある。」という課題を解決するために、行がはっきりと識別しやすい中紙の罫線を考え、太い線、細い線が交互に印刷されたものと、一行ごとに帯状の薄いあみかけを印刷したものを作ったといいます。
線の間隔や帯の幅の違ったものも数種類作成、細い線を使い漢字にフリガナをつけたり、書く時のバランスを取りやすくできるようにしたり、一番上と一番下、そして真ん中の罫線に1cmごとの印を入れ、15cmの定規でもきれいにタテ線を引くことができるようにするなど、行(=罫線)がはっきりとわかる工夫が行われています。
シンプルなデザイン
「中紙に印刷された日付欄や、表紙の華美なデザインなどが気になって集中できない」という問題を解決するために、思い切って中紙の印刷からは日付欄などをなくし、おもて表紙は中の罫内容の一部だけを表したシンプルなデザインとしたのだそうです。
また、見開きが良く、簡単にばらけることのない無線とじ製本で、ノートがしっかり開くので端まで文字を書き込むことができる工夫もされています。
大栗紙工株式会社の大栗さんにインタビュー
「mahora」を作ろうと思ったきっかけを教えてください。
私たちは、もともと「いつかは自社ブランドのノートを作りたい」と思っていました。
その中で、もし、作ったとしても、当時販路を持たなかった私たちはどうすればいいのかと考え、メディアに取り上げてもらえるようにプレスリリースの書き方講座を受講しました。
受講後に講師の先生にご挨拶した時に、「ノートを作っているなら相談があるんだけど・・・」というお話をいただきました。先生は発達障害の方を支援している団体の応援をしていること、そして、その当事者の方々が既存のノートに使いにくさを感じていることを教えてくださり、発達障害の方が使いやすいノートを作ってみませんか、と誘ってくださったのです。
私たちは既存のノートに使いにくさを感じている方がいらっしゃることに驚きました。なぜならこれまでのノートの形が当たり前だととらえていたからです。
当事者の方が「これしかないから我慢してノートを使っているんだ」とおっしゃったことは、衝撃的でしたし本当に驚きました。
そして、『ただただお役に立ちたい、作ってみたい』という強い想いがこみあげ、長年ノートを作ってきた私たちが、みなさんの困りごとを少しでも解消できるノートを作りたいと思ったのが「mahora」開発のきっかけです。
「mahora」を作るときに苦労した点は?
今までは主に大手文具メーカーの製品の受託生産を行っていたため、「決められたものを安定した品質で製造し、納期をきちんと守って納める」という仕事をしてきました。
そのため、企画をするという経験がなく、発達障害当事者の方々の困りごとを解決できるようなノートを作ろうと思っても、どのように作ればよいかわかりませんでした。
そこで、発達障害当事者の支援団体である一般社団法人UnBlance様のご協力をいただき、アンケートやヒアリングを行い、困りごとをお聞きしてサンプルを作り、それに対してご意見をいただき改良するというインクルーシブデザイン的方法を繰り返すことでノート作りを進めました。
当事者の方々の声がなければ「mahoraノート」を作ることはできませんでした。
今後、どのようなノートづくりをされていくのでしょうか。
今後も、さまざまなお困りごとに耳を傾け、お客様と一緒に作っていくノート作りができればと思っています。
読者の方にメッセージをお願いします。
mahoraは、今まであったノートに使いづらさを感じていたお客様の声から生まれたノートです。お困りごとをうかがって解消していく中で、みなさんにとって使いやすいノートになったと思っています。
ぜひ一度お手に取っていただき、「mahora」の使いごこちを体感してください!
「mahora」の名前の由来
『まほら』とは「住みやすい場所」「すぐれたよい所・国」を意味する日本の古語で『まほろば』の元となった言葉。このノートがたくさんの人にとって「使いやすいノート」「心地よく使っていただけるノート」であってほしいという想いを込めて『mahora』 と名付けたのだそうです。
2021年2月20日(土)まで、クラウドファンディング「CAMPFIRE」にてプロジェクトを支援することができます。
厳しい審査をパスしてJISマーク表示許可工場に認定され、毎年2千万冊以上のノートを作り続けてきたという確かな技術力、そして、努力を重ね、仕事に誇りを持った大栗紙工株式会社だからこそつくることができた「mahora(まほら)」。
「mahora」は使う人を特定することなく、ひとりひとりに馴染むスタンダードを目指すとのこと。発達障害の方々はもちろん、誰にとっても使いやすいノート。まさに時代に合った、そして、時代を引っ張っていくノートになるのかもしれません。
そのニーズを裏付けるのが発売11カ月で販売数1万1,000冊を突破という快挙。
ノートといえば「mahora」。
そんな日がきっと近い将来やって来る。
ノートを使うすべての人へ。
「mahora」の進化を一緒に見届けませんか。
取材協力:大栗紙工株式会社
画像提供:大栗紙工株式会社
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林美由紀 | |
FMラジオ放送局、IT系での仕事人生活を経て、フリーランスライター。好きなものは、クラゲ、ジュゴン、宇宙、クモの巣、絵本、漫画、子どもなど。グッとくる雑貨、ハンドメイド作品、文具、生き物、可愛いものとヘンテコなものを日々探しています。いつか絵本作りに携わりたいです。 |
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