東南アジアで再び拡大する新型コロナウイルス感染症

2021年6月以降、これまで新型コロナウイルスの感染を抑え込んできた東南アジアで拡大が止まらない状況となっている。特に、東南アジアで最大の人口を持つインドネシアは深刻な状況で、7月15日には1日あたりの新規感染者数が5万5,000人を超え、それ以降も3～5万人を推移している。

2021年7月26日現在、新規感染者の8割以上はデルタ株（インド由来の変異株）に感染しているとみられ、隔離病床の使用率も急上昇し、医療体制が崩壊することが懸念されている。

日系企業も多く進出するインドネシアでは

インドネシアには多くの日系企業が進出するが、インドネシアに滞在する日本人の間でも感染が拡大し、既に15人が亡くなっている。同国に滞在する日本人の間では、駐在員とその帯同家族を早期に帰国させる動きが加速しているが、日本行きのチケットが十分に予約できない状況も生じているという。

また、感染拡大に伴い、インドネシア各地ではレストランなどの飲食店への営業規制が強化されている。インドネシア政府は2021年6月22日から7月5日の期間で、飲食店に対して店内飲食は定員の25％以下、営業は20時までという決定を下したが、それでも感染拡大が止まらないことから、7月1日にジャワ島とバリ島のほぼ全域で規制が強化され、商業施設の営業は原則禁止、飲食店はテイクアウトかデリバリーのみ（店内飲食は禁止）認められる形になった。

現在もその規制は緩和されておらず、生活必需品を販売するスーパーマーケットや飲食店以外の店舗の多くが休業を余儀なくされている状況だ。

企業が検討するべき安全対策とは

前述のインドネシアのケースも１つだが、これは如何にして企業が海外駐在員の安全を守るかという問題だ。2021年に入っては、ミャンマークーデターが2月に発生し（今も深刻な状況）、いつまで駐在員を現地に留まらせるか、どういった場合に緊急帰国させるべきかを検討する日本企業が大幅に増えた。だが、多くの企業にとって帰国という決断はそう簡単なことではなく、駐在員の緊急帰国は基本的には最後の手段になる場合が多い。

暴動や内戦などの政治リスクであれば、それがある程度悪化し、また、新型コロナウイルスであれば感染がある程度拡大しないと帰国という決定にはならない。危機がはっきりと見えてから対処を本格的に開始する企業が多いというのが筆者の本音だ。

企業がいっそう求められる海外危機管理

しかし、それでは命を落とす駐在員がいることは今回のインドネシアのケースからも明らかだろう。リスクの深刻さにもよるが、何か危険な動きがあった場合には、帯同家族だけでも早期に帰国させるという手段がもっと各企業で拡がっていくべきだろう。

たとえば、現在の台湾は国内治安的には安全だが、中国の海洋進出や米中対立という安全保障の視点からみれば、偶発的衝突など駐在員の安全を脅かしかねない潜在的リスクがある。

このように海外におけるリスクは多様であり、予見が難しい問題も多い。とはいえ、企業ができる海外危機管理にも限界があるかも知れない。だが、完璧は難しいとしても、予見察知できる情報というものは公開ベースで出ているものも現在では多い。各企業には、情報取集という作業がよりいっそう求められている。

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	アンダルシア ライター／
	政治学者　専門分野は比較政治、国際政治経済。特に近年は米中関係や経済安全保障などの日本の国益を左右する研究に従事する。また、学術研究に留まらず、NHKや共同通信、朝日や日経、産経など大手メディアで解説なども行う。 著者のプロフィールを詳しく見る

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