POSTED BY アンダルシア掲載日 SEP 22ND, 2021

【論考】自民党総裁選の行方と外交・安全保障

比較政治や国際政治経済を専門とする政治学者の筆者が、世界情勢の「今」を論考する当シリーズ。今回は、4候補で展開されようとしている自民党総裁選の行方と日本が求められている役割を、各候補のキャラクターとともに考えてみる。

目次

外交安全保障分野も大きなカギとなる

Fotokon / Shutterstock.com

ポスト菅の座には誰が就くのだろうか。石破茂元幹事長は既に立候補しないことを宣言しており、河野太郎行政改革相岸田文雄前政調会長高市早苗前総務相野田幹事長代行の争いになろうとしている。朝日新聞の調査によると、誰が次期首相にふさわしいか尋ねたところ、河野氏が33%、岸田氏が14%、高市氏が8%、野田氏が3%と河野氏が一歩リードしている結果もある。

最近は北朝鮮が発射したミサイルが日本の領海内に着弾するなど、日本の安全保障が脅かされる事態となっており、次期総理が選ばれる上で外交安全保障分野は大きなカギになる。では、4人の立候補のいずれかが首相になった場合、日米や日中、日韓関係はどのようになっていくのだろうか。

河野氏・岸田氏・高市氏・野田氏が持つ強みとは

まず、河野氏と岸田氏は外務大臣の経験がある。特に河野氏は、米国留学経験もあり英語が非常に流暢で、日本の著名な国際政治学者とも個人的な関係を有しており、今日の日本の取り巻く世界情勢を考慮すると最も適任にようにも映る。河野氏は菅首相以上にバイデン大統領と個人的な信頼関係を構築し、日米関係もより強固なものになる可能性がある。

一方、韓国と中国との関係構築にも尽力するだろうが、外相時代に徴用工問題で駐日韓国大使に「極めて無礼だ」と伝えたことがあるように、何か問題があった場合には、韓国や中国に対して厳しい態度で臨むことだろう。ここは、菅総理や岸田氏、高市氏とはワンランク違う厳しさで、それによって中国と韓国との関係が3人の中では最も緊張、不安定化する可能性がある。

岸田氏も元外務大臣経験者で、人権問題担当の首相補佐官を設置する姿勢を示しているが、ここからは人権問題重視のバイデン政権との強固な日米関係構築を目指す強い意志が想像できる。岸田氏も日米関係も基軸とし、それに基づいて中国や韓国との関係構築を目指すだろうが、徴用工や尖閣などで問題があった場合には、両国に対して毅然な態度を示すことだろう。

高市氏も、時代に合った憲法の制定や防衛・安全保障の強化を進める意思を示しており、基本的なスタンスは河野氏や岸田氏と変わらない。ただ、両氏と比べると外交経験が少なく、強固な日米関係、対中国といったところで十分に存在力を発揮できないのではとの指摘もある。最後に、野田氏が高市氏と同様に外交経験が豊富というわけではなく、岸田氏や河野氏と比較すると経験的な不安が見えないわけではない。

米中対立の激化にどのように備えるか

今回の4人の候補者では、日米関係の強度や中国への厳しさというところで違い(程度差)が出てくることが考えられる。しかし、いずれにせよ、米中対立がこれまでなく激しくなり、中国の軍事力増強によって日本を取り巻く安全保障環境が劇的に変化するなかでは、誰がなっても日本の選択肢は限られている。

要は、これまでのように日米関係の強化、同盟の機能性向上に努めるだけでなく、インドやオーストラリア、英国やフランスなど同じ価値観を有する国々との安全保障上の関係を強化していくことになるだろう。

クアッドで求められるリーダーシップ

ホワイトハウスでは2021年9月24日、米国と日本、オーストラリアとインドが参加するクアッド首脳会合が初めて対面式で開催される。同4カ国で構成されるクアッドはバイデン政権が進める自由で開かれたインド太平洋構想の主軸になるもので、中国への対抗網となる。

この会合では新型コロナウイルスやサイバー攻撃、海洋安全保障問題などが話し合われる予定となっている。また、バイデン政権は英国とオーストラリアとともにインド太平洋地域の平和と安定を維持するための新たな安全保障上の枠組みを発足させるとしている。外交安全保障分野で日本が進んでいくべき道は既に明らかだが、次に日本の指導者にはそのなかで各国首脳と信頼関係を構築するだけでなく、インド太平洋地域の一員としてクアッドなどを主体的にリードしていく意思と能力が求められている。

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アンダルシア
ライター/

政治学者 専門分野は比較政治、国際政治経済。特に近年は米中関係や経済安全保障などの日本の国益を左右する研究に従事する。また、学術研究に留まらず、NHKや共同通信、朝日や日経、産経など大手メディアで解説なども行う。

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