POSTED BY アンダルシア掲載日 OCT 6TH, 2021

【論考】リトアニアが警戒を強める中国メーカーの携帯電話

比較政治や国際政治経済を専門とする政治学者の筆者が、世界情勢の「今」を論考する当シリーズ。今回は、2021年9月下旬にリトアニア国防省が警戒を強めた中国メーカーのスマートフォンと、一帯一路に基づく中東欧諸国への影響力拡大を考える。※写真はすべてイメージです

目次

リトアニア国防省が警戒を強める中国メーカーのスマートフォン

バイデン政権はアフガニスタンからの米軍完全撤退を完了し、中国への対抗意識をさらに鮮明にしている。最近は日本とインド、オーストラリアの国家リーダーをホワイトハウスに招き、4カ国によるクアッド会議を行い、英国とオーストラリアとは新たな安全保障枠組みオーカスを創設した。今後さらにインド太平洋地域では中国と自由民主主義連合との競争が激しくなることだろう。

一方、中小国の間でも中国に対する反発の声が高まっている。最近ではバルト三国の1つリトアニアが中国への警戒を強めている。リトアニア国防省は2021年9月下旬、国内で流通している中国製スマートフォンに検閲機能が搭載されているとして、国民に対して購入しない、もしくは、既に所持していたら処分するよう強く呼びかけたのだ。

THINK A / Shutterstock.com

問題となっているのは、中国の大手家電メーカー「小米科技(シャオミ)」が販売するフマートフォンで、同国防省によると、「Free Tibet(チベットに自由を)」や「democracy movement(民主化運動)」、「Long live Taiwanindependence(台湾独立万歳)」などの言葉を検出、検閲する機能が搭載され、使用者がその言葉を含むネット情報をダウントードしようとすればそれを妨害できるようになっているという。また、ロックで保護された利用者の個人情報や利用データが遠隔操作で外国のサーバーに送信されていたケースもあったとされる。

通信やネットを扱う省庁ではなく、国防省が警告したことからも、どれだけ大きな事態かが想像できるが、今回の背景には両国間の関係悪化がある。

台湾との関係を深めるがしかし・・・

最近では2021年8月、リトアニアは事実上の大使館にあたる台湾の名称を冠した代表機関を首都ヴィリニュスに開設することを発表したが、中国は強く抗議し、在中国リトアニア大使に対して直ちに北京を離れるよう要求し、反対に在リトアニア中国大使を召還することを決定した。

また、リトアニアは6月、台湾へ欧米産の新型コロナウイルスワクチン2万回分を提供した。中国はリトアニアを含む中東欧諸国に一帯一路に基づく影響力を拡大しているが、リトアニアを含む中東欧諸国の中には、新疆ウイグル自治区の人権問題や新型コロナの真相解明で中国に不満を高める国々も多く、今後さらに中国離れが進む可能性がある。

ちなみに、リトアニアの件を受け、ドイツの連邦情報セキュリティ庁も小米科技製の携帯電話に対する調査を開始したとみられ、今後他の欧州諸国でも拡大する可能性がある。

一帯一路で高まる中国企業への反発・責務

米国のウィリアム・アンド・メアリー大学のエイドデータ研究所は2021年9月29日、中国が世界的に展開する経済圏構想「一帯一路」について、今後上手くいかなくなるという報告書を発表した。

同報告書によると、一帯一路が展開される国々では、中国企業に対する反発や債務が拡大するだけでなく、すべての一帯一路プロジェクトの35%で、環境汚染や汚職、労働違反などが発生しているという。同研究所の指摘が正しいとすれば、リトアニアのケースは氷山の一角でしかないだろう。

この問題は我々日本人にとっても決して対岸の火事ではない。欧米製と比較しても安価な値段で手に入ることから、日本国内で中国製スマートフォンが多く流通している。しかし、岸田政権となったものの、インド太平洋地域のおける米中競争が必然的に激しくなるなかでは、日中関係が政治的にも経済的にも不安定化するというシナリオは考えておく必要がある。

そして大国間戦争の蓋然性が低い今日では、リトアニアのケースのように非軍事な領域で安全保障が脅かされる可能性が高いのだ。通信技術の発展に伴い、日本は身近なところから警戒を怠るべきではない。

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アンダルシア
ライター/

政治学者 専門分野は比較政治、国際政治経済。特に近年は米中関係や経済安全保障などの日本の国益を左右する研究に従事する。また、学術研究に留まらず、NHKや共同通信、朝日や日経、産経など大手メディアで解説なども行う。

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