POSTED BY 北川菜々子掲載日 OCT 8TH, 2021

【世界のニューノーマル最前線・パリ】義務化されたワクチンパスポート「フランスの衛生パス」とは

コロナ渦によって、一部の国では義務となっているワクチンパスポート。先日、ワクチン接種が進む日本でも、ワクチンパスポートの国内利用の検討が議論されているとニュースになりました。

ワクチンの接種が進んでいるフランスでは、賛否両論がありながらも、2021年8月9日よりワクチンパスポートの提示義務がスタート。現在フランス国内では、どのようにワクチンパスポートが活用されているのでしょうか。それに対するフランス人の反応とは。現地からレポートします。

目次

フランスの衛生パスとは

フランス国内においてワクチンパスポートのことを衛生パス(Pass sanitaire)と呼んでいます。なぜ、ワクチンパスポートではないのかというと、衛生パスには、ワクチン接種証明だけでない、以下の証明書のことも指しているからです。

  • ファイザー、モデルナ、アストラゼネカ、ジョンソン&ジョンソンのワクチン接種証明書
  • 72時間以内のコロナの陰性証明
  • 11日前から6カ月前の間に新型コロナウイルスに感染していたことを示す証明書
デパートや美術館や博物館には、10分で結果の出る抗原検査場があります

衛生パスは、バーやレストラン、百貨店や大型ショッピングセンターに入店するときや映画館、劇場や美術館などの文化施設への入場、スタジアムなどでのスポーツ観戦、TGVなどの長距離移動列車を利用するとき等に提示しなければなりません。

衛生パスを確認中

衛生パスは、紙面またコロナ追跡アプリ「Tous anti Covid」のアプリ内で運用されています。レストランに入店する時などは、衛生パスのQRコードを店や施設側の携帯のアプリケーションで情報を読み取ります。

衛生パス導入後、何度かレストランやカフェに行きましたが、例外はなく必ず衛生パスの提示を求められました。

衛生パスを導入した政府の狙いとは

あえてワクチンパスポートを利用しない国があるなかで、なぜフランスは衛生パスの導入に踏み切ったのでしょうか。

まず、衛生パスはWithコロナにおいて、行動制限を行わずに、経済を回す唯一の手段という考えがあります。フランスでは昨年、規制を緩和する度に、再びロックダウンという苦い経験があるからです。

また、衛生パスによる規制強化が発表された2021年7月は、フランスでは、デルタ株が広がりつつありました。その感染力の強さからあっという間に1日2万人の感染者数を記録。また、接種率も思うようには上がらないという状況が続いていました。衛生パスの導入の背景には、規制強化によって、ワクチンの接種率を上げる狙いがありました。

同時に、衛生パスは陰性証明も含まれますが、これまで無料だったRT-PCR検査と抗原検査も今秋には有料になると発表されました。

これではまともに社会的生活が送れないと感じたワクチン未接種者は、マクロン大統領の衛生パス導入の発表直後、ワクチン接種を急ぐこととなります。規制強化の結果、2021年10月現在、ワクチン接種率がフランス国民の約70%まで向上しました。

多くのフランス人は衛生パスに賛成

衛生パス導入後は、街中も活気が戻ってきました

この衛生パスに導入に対し、フランス人はどのような反応をしているのでしょうか。

フランスでは、過半数以上の国民が衛生パスに賛成だというアンケート結果が出ています。

2020年3月のロックダウン、そして2回目のロックダウン後、11月から5月まで、フランスではレストランやバーが閉まり、社会が正常に動いていない状態が続いていました。

「もうあのような状況には戻りたくない・・・」と多くのフランス人は切実に願っています。ワクチン接種のみがコロナを終わらす手段であり、衛生パスは経済を正常に動かすためには仕方のないことと考え、過半数以上の国民は衛生パスに賛成しているのです。

衛生パスに反発する人も…

一方で、衛生の義務的導入に反発する人も多く、衛生パスやこの義務的ワクチン接種に反対する大規模デモが毎週末実施されています。

ワクチンは強制ではないものの、実質「打たない自由」が認められいないこの状況は、自由が脅かされていると感じる人もいるのが現状です。

ただ、最近では毎週末に実施されているデモもあまりメディアで報道されないようになりました。

はじめのうちは衛生パスの導入に疑問を持っていたものの、導入後何カ月か経った現在、フランスでは衛生パスは当たり前のような状況になっているのです。

Photos by Nanako KITAGAWA and shutterstock

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北川菜々子
キタガワナナコ/ライター

学生時代は東京で過ごし、卒業後なんとなく思い立ちフランスへ移住。気がつけばフランスでの生活も十余年。現在はフリーランスのライターとしてライフスタイル、文化、旅行、就職など多岐に渡って執筆しています。実生活では二人の息子たちの育児に奮闘中。

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