POSTED BY アンダルシア掲載日 OCT 13TH, 2021
【論考】新疆ウイグルの人権問題と経済安全保障~各企業が抱える葛藤とは~
比較政治や国際政治経済を専門とする政治学者の筆者が、世界情勢の「今」を論考する当シリーズ。今回は、新疆綿を巡る人権デューデリジェンスと各国・各企業の動向、また中国・習政権が可決した反外国制裁法におけるさまざまな影響を考える。※写真はすべてイメージです
日本企業13社が新疆綿の調達を見直し
2021年9月下旬に共同通信が実施した調査結果によると、新疆ウイグル自治区で生産された綿花いわゆる新疆綿を巡り、日本企業18社のうち13社が新疆綿の調達見直しを検討していることが分かった。5社は依然として使用を継続すると回答したが、同13社のうち3社は既に使用を停止し、5社が今後中止する、1社が一時的な停止(その後は検討)、4社が使用量の縮小と回答した。
また、2021年に入り、ミズノやカゴメといった企業は新疆綿やウイグル産トマトの使用停止を発表したが、今後の米中対立の影響により、こういった企業はさらに増加することが予想される。ウイグル人権問題は、経済安全保障の視点からも重要な問題になっている。
不買運動の一方で輸入差し止めも
米国や英国、カナダなどは2021年3月、習政権がウイグル人への人権弾圧を続けているとして、関係者たちへ一斉に制裁を発動した。それに伴って、H&Mやナイキなど欧米企業は新疆綿を使用しない方針を発表したことから、中国では、H&Mやナイキの製品を買うなと不買運動がネット上で呼び掛けられ、大きな騒ぎとなった。
一方、企業が如何に人権に取り組むか、重視するかという人権デュージェリジェンスが欧米を中心に大きな問題となり、新疆綿などを使用する企業の中には制限を受けるようになった企業も少なくない。たとえば、新疆綿を使用するユニクロを巡っては5月、ユニクロの男性用シャツが新疆綿で製造されているとして、2021年1月から米国への輸入が差し止められていることが明らかになった。3月にはユニクロのフランス法人が、ウイグルでの強制労働や人道に対する罪を隠匿している疑いで人権NGOなどから刑事告発されたことも分かった。
新疆綿は質が良く安価な値段で手に入るので、調達見直しを行いたくないのが企業の本音であろう。だが、人権デューデリジェンスが広く叫ばれ、ユニクロのケースにように欧米との取引で摩擦が生じるのを避けたい思いもあり、やむを得ず「脱新疆綿」という選択肢を選んでいる企業が大半だろう。
しかし、脱新疆綿を選択すれば、H&Mやナイキのように中国国内で不買運動に遭う恐れもあり、企業にとっては非常に難しい問題である。正に、中国経済に強く依存する日本企業が抱えるジレンマである。
反外国制裁法が日本にもたらすものとは
人権を重視するバイデン政権が発足してから、米中対立は欧州やカナダ、オーストラリアなども巻き込む形で拡大しており、今後も中長期的に続く可能性が高い。そして、今日ではどのような国でも軍事衝突によるリスクを避けたいことから、その対立構図の主戦場は経済領域となる。
習政権は2021年6月、欧米が人権問題を理由に制裁を発動するなか、諸外国が中国に経済制裁などを発動した際に報復することを可能にする反外国制裁法を可決した。これは欧米に対して妥協することはないとする習政権の政治的シグナルであり、今後対立が先鋭化した場合、反外国制裁法に基づいて強硬な行動を取ってくることであろう。
また、反外国制裁法は第3国も制裁対象となると明記している。要は、中国が欧米に制裁を強化するなか、習政権が日本も欧米と同じだと判断すれば即制裁対象になってしまう。
上述したように、日本経済は多くを中国に依存している。しかし、ウイグル人権問題のように中国を巡る対立構図は拡大し、今後それはさらに拡大しようとしている。日本企業のなかには中国リスクを警戒し、ベトナムやタイなど東南アジアにシフトチェンジする企業もある。
現在のところ、その影響を受けている企業は限定的だが、他の品々にもそれが拡大し、異業種の会社などにも影響が拡大する恐れがある。正に、経済安全保障の視点から我々はこの問題を考えていく必要があるだろう。
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アンダルシア | |
政治学者 専門分野は比較政治、国際政治経済。特に近年は米中関係や経済安全保障などの日本の国益を左右する研究に従事する。また、学術研究に留まらず、NHKや共同通信、朝日や日経、産経など大手メディアで解説なども行う。 |
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