POSTED BY アンダルシア掲載日 JUL 14TH, 2021
【論考】中国への警戒を強めるオーストラリア~進む政治・経済関係の悪化~
比較政治や国際政治経済を専門とする政治学者の筆者が、世界情勢の「今」を論考する当シリーズ。今回は、コロナ化を経て悪化する中国とオーストラリアの関係と、南太平洋をめぐる問題を考える。
調査結果が物語る中国・オーストラリアの関係悪化
新型コロナウイルスの感染拡大が影響し、中国と関係諸国との関係が悪化している。それは、米国や英国だけでなく、オーストラリアもその1つだ。米国の調査機関ピューリサーチセンターは2021年6月、17カ国・地域の国民を対象に、中国をどう思うかについてのアンケート調査の結果を公表した。
それによると、17カ国・地域中、15カ国・地域で否定的な見方が肯定的な見方を上回り、日本の回答者88%、スウェーデンの80%、オーストラリアの78%、韓国の77%、米国の76%が中国に対して否定的な回答を示し、フランスやドイツ、英国でもその割合は6割を超えた。
また、同じくシドニー工科大学の研究チームが2021年6月に発表した対中認識についての調査結果によると、アンケートに回答した2,000人あまりのうち62%がコロナ禍によって中国へのイメージが悪化したと回答し、67%がオーストラリアの安全保障にとって中国が脅威だと回答した。
さらに、中国は最大の貿易相手であるが、8割がオーストラリアは経済的に中国に依存し過ぎだと回答し、中国と緊密な経済関係を求める声は49%に留まった。
深刻化する両国の貿易摩擦
オーストラリア国民の対中認識が悪化している背景には、両国を取り巻く最近の動向がある。コロナ禍において、オーストラリアは再三にわたってWHOや外国の査察を受け入れるなど、コロナ発生源の真相解明で習政権に透明性ある調査を要求してきたが、中国はそれに反発し、石炭や牛肉、ワインなどオーストラリアの主要輸出品の輸入を次々に制限した。
オーストラリアにとっては経済安全保障が脅かされる事態となり、同国のテハン貿易相は6月、中国がオーストラリア産ワインに対して関税を不当に上乗せしているとして世界貿易機関(WTO)に提訴すると発表した。また、ペイン外相は4月、南東部ビクトリア州が巨大経済圏構想「一帯一路」を進める中国と2018年と2019年に締結した2つの協定を破棄するとも発表している。
上のように、オーストラリアと中国との貿易摩擦は深刻化する一方であり、たとえば、2020年における中国からオーストラリアへの投資額は10億豪ドルあまりに留まり、前年比で6割以上も減少した。昨年の中国からの投資件数も20件となり、2016年の111件から大幅に減っている。
中国の南太平洋への積極展開
一方、オーストラリア国民の対中認識が悪化している理由は貿易摩擦だけではなく、オーストラリアが裏庭と位置付ける南太平洋を巡る問題もある。南太平洋というと国際政治の舞台でなかなか取り上げられないが、中国は一帯一路戦略を南太平洋へも積極的に展開している。
シドニーに拠点を置くシンクタンク「ローウィ 研究所(Lowy Institute)」によると、中国は 2006 年からの 10 年間で、パプアニューギニアに6億3,200万ドル、フィジーに3億6,000万ドル、バヌアツに2億4,400万ドル、サモアに2億3,000万ドル、トンガに1億7,200 万ドルなど莫大な資金援助を行い、各国で政治経済的な影響力を強めている。
そしてオーストラリアは、中国は南太平洋で経済だけでなく、軍事安全保障的な観点からも影響力を高めようとしていると警戒している。たとえば、オーストラリアの国防当局は2018年4月、中国がバヌアツで基地建設など軍事的な覇権拡大に関心を寄せていると警戒感を露わにした。安全保障専門家の間でも、習政権がバヌアツに人民解放軍の基地を建設し、そこを拠点としてオーストラリアや米国などに圧力を掛けようとしていると懸念の声が聞かれる。
ちなみに、同じオセアニアのニュージーランドも安全保障上、中国への懸念を強めている。ニュージーランドのピータース外相も2018年3月、ローウィ研究所での講演で中国を名指しで非難しなかったものの、オーストラリアとニュージーランドの存在力は南太平洋で低下していると懸念を示し、同年7月に公表した国防報告書では、中国が南太平洋地域の安定を脅かす可能性があると指摘された。
オーストラリアと中国との関係は、政治と経済の両面で今後さらに冷え込むことだろう。
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アンダルシア | |
政治学者 専門分野は比較政治、国際政治経済。特に近年は米中関係や経済安全保障などの日本の国益を左右する研究に従事する。また、学術研究に留まらず、NHKや共同通信、朝日や日経、産経など大手メディアで解説なども行う。 |
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