POSTED BY アンダルシア掲載日 JUL 21ST, 2021

【論考】グローバル経済のなかで企業は人権問題にどう対処するか

比較政治や国際政治経済を専門とする政治学者の筆者が、世界情勢の「今」を論考する当シリーズ。今回は、ウイグル綿花を巡る世界のアパレル業界の対応と、それを引き金とする米中を中心とした経済摩擦、日本企業の人権問題への対処などを考える。

目次

ウイグル産綿花不使用の「H&M」が受けた打撃

Sorbis / Shutterstock.com

2021年3月、米国や英国などは、中国が新疆ウイグル自治区で強制労働などの人権侵害を続けているとして経済的な制裁措置を発動したが、それ以降、同問題を巡って世界的企業が大きな影響を受けている。これを受け、スウェーデン衣料品大手「H&M」は、強制労働によって栽培されたウイグル産綿花はもう使用しないと表明したが、それによって中国国内で反発の声が広がり、H&Mの商品なんて買うなとする不買運動が拡大した。

H&Mは7月になり、2021年3~5月期の決算を発表し、中国国内での総売り上げが前年同期比で28%減少し、H&Mの中国国内の店舗数も13減少したと明らかにした。もの凄い打撃である。

人権問題で告発されたユニクロ

Sorbis / Shutterstock.com

そして、日本を代表するユニクロも大きな影響を受けている。フランス国内の人権NGOなどは2021年4月、ウイグルでの人権問題を巡って強制労働や人道に対する罪を隠匿している疑いで、ユニクロのフランス法人など4社を刑事告発した。フランス検察当局は2021年7月、ユニクロの現地法人など4社を人道に対する罪に関係した疑いで捜査を開始したという。

Azamat Imanaliev / Shutterstock.com

また、米国税関当局が2021年5月に公表した文書によると、ユニクロの男性用シャツが新疆ウイグル自治区で生産された綿花で製造された可能性があるとして、1月に米国への輸入が差し止められた。ウイグル産の綿花は世界で栽培される綿花の5分の1を占め、安価で質が良いことから世界中の衣料品メーカーが使用しているが、現在、ウイグルの人権問題を巡って、大きな問題になっている。

カゴメ・ミズノはウイグル産製品を回避

反対に、ウイグル問題による悪影響を察知したのか、日本企業の間ではウイグル産製品を回避する動きも見られる。野菜ジュースで有名なカゴメは2021年4月、ウイグル産トマトの利用を停止すると発表した。カゴメは、品質や調達先の安定性、コストなどに加え、今回ウイグルでの人権侵害をめぐる国際的な批判を考慮し、総合的に判断したと明らかにしている。

また、スポーツ用品大手のミズノも2021年5月、ウイグル産の綿花使用を停止する方針を明らかにし、今後は新疆綿を使用してきた商品では違う素材への切り替えを検討しているという。今後、ウイグル人権問題を巡って米中対立がさらに激しくなれば、カゴメやミズノなどの動きに追随する日本企業が増える可能性がある。

厳しい姿勢を貫く米国と対処を迫られる日本企業

その米中対立は今後も中長期的に続き、経済舞台がその主戦場となろう。米国は2021年6月にもウイグルでの人権侵害に関わった疑いがあるとして、太陽光パネルの材料などを生産する中国企業5社を、7月にも同様にハイテク監視の技術などを持つ中国企業14社を制裁リストに追加するなど、中国へ厳しい姿勢を貫いている。中国は6月、外国による制裁に報復するための反外国制裁法を可決したが、今後は同法によって中国からの米国への経済制裁が活発化する恐れがある。

人権問題を軸に米中経済摩擦が深刻化することは、日本にとって大きなマイナスだ。海外展開する日本企業は、今後さらに人権問題にどう対処していくかを考えていく必要がある。ユニクロやカゴメ、ミズノなどのケースはその教訓となるだろう。

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アンダルシア
ライター/

政治学者 専門分野は比較政治、国際政治経済。特に近年は米中関係や経済安全保障などの日本の国益を左右する研究に従事する。また、学術研究に留まらず、NHKや共同通信、朝日や日経、産経など大手メディアで解説なども行う。

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