POSTED BY アンダルシア掲載日 JAN 12TH, 2022

【論考】政治的空白地帯がもたらす2022年のグローバルリスクとは?

地政学リスクを専門とする米国のコンサルティング会社ユーラシアグループは2022年1月、世界の重大リスクに関する報告書「TOP RISKS 2022」を発表。そのなかで「政治的な空白地帯(Empty lands)」について懸念を示した。具体的には、米国が世界の警察官から撤退を表明し、中国との競争に集中することにより、世界ではイスラム過激派勢力などが自由に活動できる政治的空白地帯が拡大するという内容。その具体的地域としてアフガニスタンやイエメン、アフリカ・サヘル地域(マリ、ブルキナファソ、ニジェールなど)が挙げられた。そこで今回は、今年さらに深刻化する恐れがある上記のグローバルリスクについて、詳しく見ていきたい。

目次

深刻化する「政治的空白地帯(Empty lands)」

まずは、アフガニスタン。昨年夏の米軍のアフガン完全撤退とタリバンの実権奪還は、世界に大きな衝撃を与えた。アルカイダやイスラム国といったイスラム過激派は組織的に弱体化したものの、欧米などを攻撃する意思は依然として持たれている。米国の外交・安全保障政策の中心が中国に移るものの、相変わらずテロ組織を警戒する声が聞かれる。

たとえば、米国のカール米国防次官は2021年10月、上院軍事委員会の公聴会で、アフガニスタンで活動する「イスラム国ホラサン州」が半年から1年以内に米国を攻撃する能力を身につける恐れがあり、アルカイダも1年から2年の間に同様の能力を向上させる恐れがあると懸念を示した。

また、英情報局保安部(MI5)のマッカラム長官は2021年7月、「米軍など外国軍の撤退により、イスラム過激思想に感化された英国人がアフガニスタンのテロ組織に参加し帰国後に国内でテロを実行する恐れ」、また、「外国軍撤退をアルカイダなどが自らの勝利と位置づけ、ネット上での広報活動を活発化させることで、国内に潜む過激派分子が刺激を受け単独でテロを起こす恐れ」をそれぞれ指摘した。

国際テロ組織のメンバーも増加傾向に

一方、米国のシンクタンクからも同様の見解が指摘されている。米国のSoufan Groupは2021年9月、国際テロ組織であるアルカイダとその関連組織に属するメンバーは、推定で今日でも世界に3万人から4万人あまりいると指摘。また、戦略国際問題研究所(CSIS)は2018年11月、アルカイダやイスラム国などと関係するイスラム過激派は世界に67組織あり、9.11同時多発テロがあった2001年から約1.8倍に増加しているとする報告書も公開している。

イスラム国の動向も懸念

そして、イエメンやサヘル地域の他に、グローバルな影響を考えるのであればイスラム国の動向が懸念される。

イスラム国はシリア内戦やイラク宗派対立によって生じた「Empty lands」を利用することで、2014年以降、イラクとシリアで最大英国領土に匹敵する領域を支配し、各地でテロ活動を活発化させた。今日では支配地域を失ったものの、今もなお活動を続けている。

国連は、現在も両国で1万人あまりの戦闘員が活動していると報告。イスラム国による近年のテロは小規模なものが殆どだが、昨年も3回ほどバグダッドで大規模な自爆テロが実行され、数十人が犠牲となるなど、依然として不穏な空気が漂っている。

イラク南部の港町バスラでも先月、爆弾テロ事件によって少なくとも4人が死亡、20人あまりが負傷した。この事件でもイスラム国の犯行が疑われているが、イスラム国の残党勢力によるテロはバクダッド近郊や北部や西部に集中しており、南部バスラでテロが起こったのは2017年ぶりとなる。

今後、イラク政治が再び不安定化することがあれば、それに不満を持つスンニ派住民を、同じスンニ派のイスラム国が味方に付けるという可能性は十分にある。シリアでは依然として内戦が続いており、それによってイスラム過激派などが自由に活動できる「Empty lands」が再び拡大すれば、世界情勢に大きな影響を与えることだろう。

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ライター/

政治学者 専門分野は比較政治、国際政治経済。特に近年は米中関係や経済安全保障などの日本の国益を左右する研究に従事する。また、学術研究に留まらず、NHKや共同通信、朝日や日経、産経など大手メディアで解説なども行う。

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