公共サービスのデジタル化

フランス政府はここ数年、公共サービスのデジタル化を進めていました。それによって、行政のほぼすべての手続きがオンラインで行えるようになっています。公共料金の領収書は郵送されることなく、電子化されてメールで送信されてくることがほとんど。医療履歴などもすべてWebサイトにアクセスすると閲覧できます。

コロナ渦で加速したデジタル化社会

このように、フランス政府はデジタル化を進めていましたが、コロナ渦によって、さらに住民のデジタル化への意識と行動の変化をもたらしました。

パソコン一台で自宅での仕事が可能となった人が多く、業務連絡はメールやSlackで行い、必要に応じてビデオ通話も活用されています。紙作業は減り、書類の共有などはクラウド上で効率よく行うようにもなりました。ロックダウンで疎外感や孤独感という個人の問題を感じることもあるようですが、仕事のデジタル化自体はポジティブに捉えるフランス人が多いと言われています。

また、それまで役所で行なっていた公共サービスの手続きを、コロナ渦をきっかけにWebサイトを通してできることを知ったフランス人も少なくはなかったと聞きます。「以前は仕事が休みの土曜日の朝に役所に行っていたが、今は時間の無駄が減り本当に便利だと感じる」とあるフランス人は話していました。

個人的には、子どもの幼稚園の連絡もすべて、Webサイトやアプリケーションを通じて行われるようになったのが大きな変化でした。情報伝達の効率がよく、写真を通して幼稚園の様子を知ることができるので、このデジタル化は歓迎ムードでした。

フランスのデジタル社会で感じたメリットとは

フランスは日本よりも書類社会で、トラブルに備えてあらゆる書類を保存しておかなければなりませんでした。それは家庭でも職場でも同じこと。「ファイルが何冊あっても足りない！」というぐらい、書類の保管に頭を悩まされていました。

現在は、多くの公共サービス関連の書類をWebサイトで確認でき、必要に応じて印刷も可能になっているので、時間と場所の節約になっています。また、デジタル化が進むことにより、紙の無駄遣いを防ぎ、資源を守ることにも繋がっています。

フランスのデジタル社会で感じたデメリット

その一方で、デジタル難民問題も抱えています。デジタル化社会には、ネット環境やパソコンやスマートフォンなどのデジタルデバイスは必需品。しかし、高額なこともあって、なかなか購入できないという人も少なくはありません。

インターネット上での手続を難しく感じている高齢者が多いこともよく耳にします。実際に私の周りでも、年金の手続きをやってみたけれどよくわからなかった・・・。というフランス人もいました。デジタル化社会への移行に不安を感じている高齢者も少なくはないようです。

しかし、デジタル社会先進国デンマークのように、デジタル難民が生まれないような政策がしっかり取られているわけでもありません。フランスでのデジタル化社会への移行は一方的に進んでいる側面もあるのです。

筆者も行政の手続きをインターネットで行っていますが、不具合のために何度も電話で問い合わせた経験があります。デジタル化が進んでいるとはいえ、まだまだWebサイト等の設備が完璧に整っている状態ではありません。

コロナ渦でデジタル化が加速したフランスですが、「無駄が省かれている」、「時間の節約になっている」と、概ね歓迎ムードです。ただし、同時にデジタル難民も生まれ、取り残されていると感じている人も少なくないのも事実。今後、そのような人たちへの支援をどう行っていくかが課題なのは間違いありません。

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	北川菜々子 キタガワナナコ／ライター
	学生時代は東京で過ごし、卒業後なんとなく思い立ちフランスへ移住。気がつけばフランスでの生活も十余年。現在はフリーランスのライターとしてライフスタイル、文化、旅行、就職など多岐に渡って執筆しています。実生活では二人の息子たちの育児に奮闘中。 著者のプロフィールを詳しく見る

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