POSTED BY アンダルシア掲載日 MAY 12TH, 2021

【論考】米中対立による日本企業への影響~中国との経済関係を考える~

比較政治や国際政治経済を専門とする政治学者の筆者が、世界情勢の「今」を論考する当シリーズ。今回は、日本企業の安全保障と中国への経済的依存の是非を考える。

目次

続く中国の海洋進出

写真はイメージです

2021年5月に入り、日本最南端の有人島である沖縄県・波照間島沖で2日、中国の海洋調査船が日本の同意を得ずにワイヤーらしきものを下ろして海洋調査を行っていたことが確認された。去年7月にも、小笠原諸島・沖ノ鳥島沖の排他的経済水域で中国船が10日間に渡って海洋調査を行っていた。中国は海洋強国を目指すべく、第1列島線を超え、第2列島線から西太平洋へ進出する海洋戦略があり、今後も長期的なビジョンで海洋覇権を強めてくることから、必然的に米中対立は続くことになる。

欧米企業の舵切りと追従する日本企業

そのようななか、近年、経済安全保障という言葉が注目を集めているのは周知の事実だ。現在でも中国の海洋覇権の問題は、ほぼ政治領域の世界でしか議論されないが、それがいかに経済領域、もっといえば企業の安全保障にどう影響するかは喫緊の課題になっている。

写真はイメージです Sara Sette / Shutterstock.com

3月下旬、中国西部の新疆ウイグル自治区での強制労働を懸念し、日本でも人気のスウェーデン大手衣料品ブランド「H&M」や米国の「ナイキ」などの欧米企業がウイグル産の綿花を使用しないと発表したことで、中国のSNS上では「H&Mやナイキの製品は買うな!」などの反発や不買運動を呼び掛ける声が拡散した。これによって、中国の歌手や芸能人もH&Mやナイキとの契約解除を相次いで表明した。

そして、日本企業でも、野菜ジュースでも有名な食品大手「カゴメ」は4月、ウイグル人権問題に関連し、新疆ウイグル産トマトの利用を今年中に停止すると発表した。カゴメは品質や安定性などを総合的に勘案した結果こういう判断を下したとしているが、ウイグル人権問題も判断材料になったと明らかにしている。その後、中国国内のネット上ではネガティブキャンペーンが一斉に始まり、ウェイボーなど主要なSNS上では、「もうカゴメの製品は買わない!」などの投稿も発見された。

中国依存をどう見ていくのか

カゴメの件に対してはそれ以上の大きな動きは見えないが、過去には、中国へ進出する企業や中国と取引がある企業は貿易的、物理的な被害に遭ったことがある。例えば、2010年の尖閣諸島における中国漁船衝突事件、2012年の日本政府による尖閣諸島の国有化宣言などによって、中国は日本向けのレアアース輸出制限を実行し、中国各地ではホンダやトヨタ、パナソニックやイオンなどの店舗・工場が破壊や放火、略奪の被害にあった。

写真はイメージです

最近、中国に進出する日系企業の担当者たちと話す機会が東京で何回かあったが、「今後の米中対立を考えたら中国依存を減らした方がいいか具体的に考えている」、「今すぐ規模縮小や撤退を実行するわけではないが、そのための理解を会社内で共有し、できる限りの準備はしておく」、「今はコロナ禍でなかなか現地に行けないが、駐在員や帯同家族の安全や保護を強化していく必要がある」などの今後を懸念する声が多く聞かれた。

一方、「政治と経済は別だ、これからも業務に大きな変化はない」という強気の声や、「市場としての中国がないと経営的にやっていけない」と嘆く声も少なからず聞かれた。直ちに中国からの撤退が加速化するわけでないが、去年にも同様の会合に参加した時と比べ、明らかに中国への懸念が強まっていることは肌で感じた。

4月中旬、菅総理はワシントンでバイデン大統領と会談し、第5世代移動通信ネットワーク5Gの推進や半導体など重要物資のサプライチェーン構築に関する協力を拡大させていくことで一致した。だが、バイデン大統領は半導体などで“脱中国のサプライチェーン構築”を狙っており、中国との経済関係はキープしたい日本としては非常に難しい立場にある。正に板挟み状態にあり、それが少しでも不安定になると、在中日本企業は何かしらの被害に遭う恐れがある。

今後さらに情勢が悪化すれば、カゴメのように中国依存を減らす日本企業の動きが高まり、ベトナムやインドネシア、タイなどへシフトチェンジする企業が増える可能性もある。

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アンダルシア
ライター/

政治学者 専門分野は比較政治、国際政治経済。特に近年は米中関係や経済安全保障などの日本の国益を左右する研究に従事する。また、学術研究に留まらず、NHKや共同通信、朝日や日経、産経など大手メディアで解説なども行う。

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