POSTED BY アンダルシア掲載日 MAY 19TH, 2021
【論考】英仏独のインド太平洋への接近~世界経済のハブ化が進む同地を考える~
比較政治や国際政治経済を専門とする政治学者の筆者が、世界情勢の「今」を論考する当シリーズ。今回は、将来的により世界経済のハブ化が進むであろうインド太平洋と政治経済競争を考える。
欧州のインド太平洋への接近
今日までに、英国やフランス、ドイツの海軍がインド太平洋地域にフリゲート艦を派遣し、日本や米国などと合同軍事演習の実施を明らかにするなど、欧州のインド太平洋への接近が加速化している。これには新型コロナウイルスの感染拡大に伴う欧州と中国との関係悪化が大きく起因しているが、今後の世界経済のハブがインド太平洋になるとの欧州なりの判断や戦略がある。
特に、英国はEUから離脱して新たな経済パートナーシップを求めており、日本やインド、東南アジアを重視する姿勢を鮮明にしている。今後は、欧州とインド太平洋の安全保障的接近から、それが如何に経済的領域へ影響が波及するかを見ていく必要がある。
ワクチン外交競争も起因する亀裂
新型コロナウイルスが中国・武漢を起源とされることから、感染拡大の震源地となった欧州主要国と明確な発生源解明で積極的に対応しない中国との間で亀裂が深まり、それは各国にワクチンを配給するというワクチン外交競争にも発展している。また、習政権は2020年7月に香港国家安全維持法を施行したが、それによって民主派への締め付けが強化され、一国二制度が事実上崩壊状態にある。香港の人権問題を巡っても両者の関係が悪化した。
そして、欧州のインド太平洋への接近は、バイデン政権になってからもさらに加速化している。トランプ政権時は米国と欧州との間で最悪レベルに関係が冷え込み、対中国で協力を深めるような状況ではなかった。しかし、同盟国・友好国と協力しながら中国へ対抗する戦略を重視するバイデン政権となり、米欧関係は大幅に改善され、対中国での米欧協力が進んでいる。
最近、インド太平洋構想の基軸となる日米豪印4カ国の枠組み“クアッド”の動きも加速化、英仏独はクアッドとの協力を強化する意思も鮮明にしており、“クアッドプラス”の枠組みが固くなっている。
世界秩序が生まれるインド太平洋
一方、欧州がインド太平洋へ接近する理由は政治的背景だけではない。インド太平洋は、世界全体のGDPの60%、世界人口の65%を占めると言われ、今後のインドやASEAN諸国などの経済発展や人口増加を考えれば、これまで以上に世界経済のハブとなることは間違いない。また、GDP世界ナンバー1の米国、ナンバー2の中国、ナンバー3の日本が集う地域でもあり、今後の新たな世界秩序はインド太平洋から生まれ、世界に拡大していく可能性がある。
今後、米中が主導する形で秩序形成が進められることになるが、その秩序形成に関与していなければ中長期的には利益を共有できず、蚊帳の外に置かれる可能性がある。戦後の国際秩序は、米国を中心に英仏独など欧米諸国を中心に作られてきたが、英仏独にはインド太平洋に接近し、そういった懸念を払拭したい狙いもある。
TPP加盟の方針もみせる英国
英国のトラス国際貿易相は2021年1月、日本やオーストラリア、シンガポールなど11カ国が加盟する環太平洋連携協定(TPP)へ近く正式に加盟する方針を明らかにした。域外国がTPPへの加盟手続きを行うのは英国が初めてだが、EUから離脱した英国は新たな経済パートナーや枠組みを模索している。
また、今年のG7議長国である英国は、中国との関係が冷え込む中、インドとオーストラリア、韓国の3カ国を招待した形で拡大会合を行う意思を明らかにしている。欧州主要国がインド太平洋へ接近するだけでなく、インド太平洋の中枢国を逆に欧州へ接近させる英国の戦略は、英国の本気度を示している。
日本を1つの軸とするインド太平洋では、今後、中国と“先進民主主義”同盟との政治経済的な競争がいっそう激しくなる。日本経済の動向を追っていく上でも、この競争はキーポイントとなる。世界情勢は刻々と動き出している。
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政治学者 専門分野は比較政治、国際政治経済。特に近年は米中関係や経済安全保障などの日本の国益を左右する研究に従事する。また、学術研究に留まらず、NHKや共同通信、朝日や日経、産経など大手メディアで解説なども行う。 |
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