POSTED BY アンダルシア掲載日 MAY 26TH, 2021
【論考】インド太平洋構想におけるASEANの重要性~注視すべき各国の動向~
比較政治や国際政治経済を専門とする政治学者の筆者が、世界情勢の「今」を論考する当シリーズ。今回は、世界経済の中心となり最も激しい競争の舞台になるであろうASEANの動向と周辺各国の関わり方を考える。
経済成長を続けるASEAN
前回の論考では、英国やフランス、ドイツなど欧州のインド太平洋への接近を説明したが、今回はもう1つ踏み込んだ議論を展開したい。インド太平洋地域が今後世界経済のハブになる話を前回したが、その中心となり最も競争の舞台となるのはASEANだ。
現在、米中対立の影響で中国に展開する日系企業の間では、米中対立に伴う日中経済の悪化を懸念する声も少なくない。その中でリスクヘッジとしてベトナムやタイ、インドネシアなどASEANへのシフトを考える動きもあるように、経済成長を続けるASEANは主要国の注目を浴びている。
キープレイヤーを陣営に付けたい各国
最近でも、2021年5月上旬に英国で開催されたG7外相会合では、インドやオーストラリア、韓国なども招待され、G7とASEANが今後協力を深めていくことにも言及があった。
また、それを警戒するかのように、中国が2021年6月に開催予定のASEAN外相会合を中国で開催するよう提案したことが明らかになった。欧米や中国などインド太平洋地域のキープレイヤーにとってASEANを如何に自国陣営につけるかが、大きなポイントなりつつある。
だが、ASEANとっても加盟国全部が同じ立場にあるわけではない。中国は自らが進める巨大経済圏構想「一対一路」に基づき、ミャンマーやカンボジア、ラオスを長年経済的に支援しており、同3カ国は国際政治の舞台で中国に対して反対できる立場にはないし、中国としても同3カ国への影響力を維持・拡大したい狙いがある。例えば、2021年2月以降、ミャンマーでは国軍によるクーデターにより市民の殺害も相次ぐなど混乱が続き、欧米諸国は一斉に国軍幹部や国軍系企業への経済制裁を発動したが、中国は依然として沈黙(黙認)を続けている。
関係を深める中国とミャンマー
中国には、ミャンマーを通過点として中国とインド洋を経済的に繋ぎたい狙いがある。既に、ミャンマーを通過点としてインド洋と中国を繋ぐパイプラインは運用されており、中国は石油や天然ガスを同パイプラインによって輸入している。今後は高速道路や鉄道も開発することで、中国と中東・アフリカの接近をさらに押し進めようとしている。
両国の政治的動きも活発だ。アウン・サン・スー・チー氏は2017年12月、北京で習近平氏と会談し、ヤンゴン、西部ラカイン州にある港町チャオピューと雲南省昆明を鉄道と高速道路で繋げる構想「中国・ミャンマー経済回廊」を進めていくことで合意した。また、習近平国家主席も2020年1月にミャンマーを訪問し、同経済回廊の推進、ヤンゴンの都市開発など33項目からなる覚書をミャンマー政府と交わすなど、近年、中国とミャンマーは蜜月関係にある。
日米のASEANとの関わり方とは
一方、日本や米国などがASEANで影響力を維持・拡大させていく上では、南シナ海の領有権問題で中国と対立しているベトナムやフィリピン、マレーシアやインドネシアとの関係が重要となる。中国の海洋進出について、同4カ国は懸念を強めており、日本や米国などはベトナムやフィリピンなどとの安全保障協力を進めている。また、それに付随するように英国やフランス、インドやオーストラリアもベトナムやフィリピンなどと安全保障上の協力を深めていくことが予想され、対中国でASEANに接近している。
当然ながら、中国はそれを警戒し、ベトナムやフィリピン、マレーシアやインドネシアとの関係強化を進めようとしている。例えば、中国産のコロナワクチンの提供、いわゆるワクチン外交はその典型例だろう。
欧州がインド太平洋地域に接近しているように、今後はASEANがポイントになる。ASEANを巡る中国と民主主義国家との競争はいっそう激しくなるだろう。
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アンダルシア | |
政治学者 専門分野は比較政治、国際政治経済。特に近年は米中関係や経済安全保障などの日本の国益を左右する研究に従事する。また、学術研究に留まらず、NHKや共同通信、朝日や日経、産経など大手メディアで解説なども行う。 |
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