世界初！水素エンジンを搭載してレースに出場

2021年5月21～23日、自動車レースの最高峰・F1も開催された国際サーキット「富士スピードウェイ」にて開催された、スーパー耐久シリーズ2021「第3戦 NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レース」。このレース最大の見どころは、トヨタが水素エンジンを搭載したカローラ・スポーツで参戦したこと。水素のみを燃料にしたレース参戦車は、このマシンが世界初となります。

同レースは、モータースポーツファンにも人気の高いのも特徴です。しかし今年は、 “普段取材に来ない”大手新聞社やテレビ局など、ニュース系のマスコミ陣も殺到。水素のみを燃料にしたトヨタのカローラ・スポーツの走りや耐久性に注目が集まりました。

水素エンジンを搭載したカローラ・スポーツには、井口卓人、佐々木雅弘、MORIZO（モリゾウ）、松井孝充、石浦宏明、小林可夢偉といった、有名レーシングドライバーが、24時間のレースを交代してドライブしたのです。

ハンドルを握る「MORIZO（モリゾウ）」とは？

なお、ドライバーの一人である「MORIZO（モリゾウ）」とは、日本自動車工業会の会長であり、トヨタ自動車の社長でもある豊田章男氏のこと。一人のクルマ好きとして、イベントやレースでは「MORIZO（モリゾウ）」と名乗り、ドライビングを楽しんでいます。今回の24時間耐久レースにも、ドライバーとしてエントリーしました。

レース好きでも有名な、「MORIZO（モリゾウ）」ことトヨタの豊田章男社長は、これまでのトヨタ自動車社長、また他の国内自動車メーカーの社長に比べ、ややユニークでちょっと変わった方（良い意味で）。

豊田社長はバイクも大好きで、革ツナギを着用し、ホンダ製の大型スポーツバイクでサーキットを激走したこともあります。業務提携している馴染みのヤマハ製ではなく、ライバル社のホンダ製バイクに公の場で乗ってしまう・・・。こうした点も、柔軟性のある豊田社長の人柄というか、型破りというか、ステディなイメージのある、これまでのトヨタ社長とは大きく異なる点でもあります。

「カーボンニュートラルの選択肢を増やしてほしい（豊田社長）」

2020年10月26日、菅総理大臣は2050年までに、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量から、森林などによる吸収量を差し引いてゼロにすることを目標にした「カーボンニュートラル」を表明。

これに対し、豊田社長はレーススタート（22日15時）直前に行なわれた記者会見で、

「政府がカーボンニュートラルを目指すことを発表して以降、自工会会長の私から、『（電動化を前提にするなど）順番を間違えないでほしい』、『カーボンニュートラルの選択肢を増やしてほしい』と、進言してきました。

すべての自動車がBEV（電気自動車）になったら、日本では100万人の雇用が失われる。今回のレース出場は、選択肢のひとつ（水素エンジン）を実証実験できる場だと思っています」

と述べました。

また、豊田社長は、2020年12月の記者会見で、

「2011年の福島原発事故以降、日本では原子力発電を抑制。2021年現在、火力発電の比率は75％を占めます。現時点において、すべての自動車の電動化（EV化）は、電力供給の面では現実的ではありません。

電気を作る過程で二酸化炭素を排出してしまっては、せっかくのゼロエミッションも意義が薄れます。ハイブリッドを含む内燃機関（ガソリンエンジン）を使いつつ、徐々に電動化を進めていくことが必要ではないか」

と、政府に“苦言”を呈しています。

燃料の水素は、福島県浪江町の太陽光発電を利用

今回のレースで使用した水素は、福島県浪江町にある「福島水素エネルギー研究フィールド（FH2R）」で製造されたもの（※1）。24時間走行分の水素は、トレーラー4台で運搬されました。

※1：「福島水素エネルギー研究フィールド（FH2R）」とは？
NEDO、東芝エネルギーシステムズ、東北電力、岩谷産業の各社が協力して2018年から福島県浪江町で建設を進めてきた、世界最大級の水素製造施設。2020年3月に稼働を開始。

燃料として使用した水素は、再生可能エネルギー（太陽光発電）で水を電気分解して製造するため、製造過程でCO2は発生しません。

また、カローラ スポーツに搭載された水素エンジンは、燃焼時に極めて微量のエンジンオイル燃焼分を除き、発生するのは水（H2O）のみ。ガソリンエンジンと同じタイプの“排気音”が出るのも特徴です。

24時間で1,634kmを走破し、完走した水素エンジン搭載車

水素エンジンを積んだカローラ・スポーツは、24時間で358周(1,634km)を走り、見事完走しました。ちなみに総合優勝の日産GT-Rは、24時間で763周。水素エンジンのカローラ スポーツは、夜間に電気系トラブルが発生し、長時間停車。実際に走行したのは、12時間ほどでしたが…。

「水素エンジンのクルマが、過酷な24時間レースに出場して完走した」という今回の出来事は、すべての自動車を電動化（EV化）することを目指す中国やヨーロッパのメーカーにとっては、衝撃的だったことは間違いありません。

トヨタは今後もレースなどを実験場として、水素エンジンの開発・改良を続けていくと発表しています。

2030年までに水素ステーションを1,000基整備

トヨタが進める水素を利用した市販車としては、「水素と酸素」で発電し、モーターを動かす燃料電池車（FCV）の「ミライ」があります。

燃料電池車（FCV）は電気自動車（EV）と同じく、有害物質の排出がなく、発生するのは水のみ。また、長時間充電が必要な電気自動車（EV）とは異なり、短時間で燃料である水素の充填が可能です。

また、燃料電池車（FCV）は、一回の充填による走行距離が電気自動車（EV）より長いのも特徴。 水素の充填は、ガソリンスタンドの代わりとなる「水素ステーション」で行います。2021年5月現在、全国の商用水素ステーションの設置数は150前後。

政府が2021年6月にまとめる成長戦略の原案では、2030年までに燃料電池車の燃料を補給する水素ステーションを1,000基整備する目標を新たに掲げています（2021年5月29日の日本経済新聞より）。

写真下は千葉県千葉市にできた「千葉北水素ステーション」。ここは元々ガソリンスタンドでしたが、最近、新たに水素ステーションが設置されました。

この 「千葉北水素ステーション」は、筆者の自宅からクルマで約10分の距離。水素が少しずつ、身近なものになってきた気がします。水素を使った自動車が身近になる日も、そう遠くはないと感じます。

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	北秀昭 編集者／ライター
	神戸～東京築地～横浜～兵庫姫路～大阪京橋育ち。瓦敷き職人助手、空手師範代助手、ダスキ〇のお掃除部隊等に従事しながら高校・大学を卒業後、旅行グルメの編プロを経て、車やバイクに特化した出版社に勤務。バイク専門サイト「4ミニ.net」運営。 https://4-mini.net/ 著者のプロフィールを詳しく見る

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