POSTED BY 北 秀昭掲載日 MAY 12TH, 2021

トヨタは水素エンジンやFCVで「中国・欧州勢」のEV至上攻撃に勝てるか

中国やヨーロッパが推し進める「すべての自動車の電動化(EV化)」、「ハイブリッドやPHVを含めたガソリン車の全面的排除」という流れを、仮に日本政府が言われるがままに受け入れてしまえば、現況、火力発電に頼る日本や国内自動車メーカーに勝ち目はなく、明日はない…。世界を相手にしたこの危機的状況を前に、トヨタは今、“お家芸”であるハイブリッド以外のもう一つの武器、「水素」で勝負しています。中国や欧州が仕掛けたムーブメントに対し、トヨタの反撃は、すでに始まっています。

目次

中国や欧州が推し進める、電動化(EV化)というタダならぬ「闇(やみ)」

日本が誇る世界最大の自動車メーカー・トヨタは、2021年4月28日、F1レースも開催された国際サーキット「富士スピードウェイ」にて、水素エンジンを搭載したカローラ スポーツを公開。この水素エンジンカーは、トヨタ自動車社長・豊田章男氏がオーナーを務める「ORC ROOKIE Racing」の参戦車両として、2021年5月21日~23日に行なわれるスーパー耐久シリーズ2021「第3戦 NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レース」に挑戦します。

水素エンジンを搭載したレース仕様のカローラスポーツ

ガソリンエンジンに替わり、モーターを動力とする電動車(EV)でのレースは、イギリスのマン島で開催されている伝統のバイクレース「マン島TT」などでも開催中ですが、あのトヨタが電動車(EV)ではなく、水素エンジンを使ったレースカーって…。トヨタらしからぬ!? このニュースを聞いた筆者は、

「真面目でステディなイメージのあるトヨタが、何だか突飛で、奇抜なことをするなぁ」

という感想を抱きました。例えるなら、他メーカーが絶対に作らないような、超個性的なモデルを排出していた頃の「ホンダ」のような、とも言うべきか…。

アレコレ調べてみた結果、どうやら事態は「トヨタが水素エンジンって凄いよねー」という単純な話ではなく、中国やヨーロッパが大きく関係したタダならぬ事態に直面している模様です(詳しくは下記参照)。

ちなみに、カローラ スポーツのシャシー&ボディに搭載された水素エンジンは、ツインカム直列3気筒1618ccのインタークーラー付きターボ。ガソリンエンジンの燃料供給系と噴射系を変更し、水素を燃焼させるシステムを導入。なお、水素を動力とした新型モデル「ミライ」の70MPaタンクを利用した、圧縮気体水素が用いられています。

水素エンジン搭載のカローラスポーツは、2021年5月21日~23日のスーパー耐久シリーズ2021「第3戦 NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レース」にも出場予定

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トヨタが進める「水素エンジン」とは?

トヨタが進める「水素エンジン」は2種類あります。

1つは上記のレースカーに搭載されたタイプ。ガソリンの代わりに、水素を燃料としたものです。燃やす(爆発させる)のが化石燃料=ガソリンではなく、水素であること以外は、基本的にガソリンエンジンと同じ。そのため水素エンジンは、既存のガソリンエンジンがほぼそのまま流用できます。

水素エンジンの仕組みはガソリンエンジンとほぼ同じ

水素エンジンのポイントは、ガソリンエンジンも発生するごく微量のエンジンオイル燃焼分を除き、走行時に出るのは水蒸気=水のみ。電気自動車(EV)と同じく、CO2は発生しません。

水素エンジンは、かつてドイツのBMWや日本のマツダも熱心に研究。しかし水素の貯蔵が難しく、ガソリンスタンドの代わりとなる「水素ステーション」の設置には数億円という巨大なコストがかかるなどの理由から、2021年現在、普及は困難な状況です。

「水素と酸素」で発電し、モーターを動かす燃料電池車(FCV)

トヨタが進める水素エンジンの2つめは、「水素と酸素」で発電し、モーターを動かす燃料電池車(FCV)。国内では、市販車のトヨタ・ミライに採用されているタイプです。

燃料電池車(FCV)を採用した市販モデル、トヨタ・ミライ

燃料電池車(FCV)は、水素と酸素を化学反応させ、水にする段階で電気エネルギーを発生させるシステム。リチウムイオンバッテリーに電気を蓄えておく電動自動車(EV)のようなタイプではなく、車内に発電装置を設けたタイプです。

理科の実験でやった「水の電気分解」を覚えていますか? 電解質を溶かした水に電流を流すと、水は酸素と水素に分解する。燃料電池車は、この逆のしくみを利用しています。

水素と酸素を化学反応させ、水にする段階で電気エネルギーを発生させる燃料電池車(FCV)のイメージ図

燃料電池車(FCV)のポイントは、大型のリチウムイオンバッテリーを搭載した電気自動車(EV)とは異なり、車両に搭載した燃料電池内で発電し、モーターを動力にして走行するということ。つまり、リチウムイオンバッテリーは必要としません。

ミライの車体。黄色い部分が水素タンク

燃料電池車(FCV)は電気自動車(EV)と同様に、有害物質の排出はなし(出るのは水のみ)。また、長時間充電が必要な電気自動車(EV)と違い、短時間で燃料である水素の充填が可能なこと。

加えて一回の充填による走行距離も、電気自動車(EV)より長いのが大きなポイントです。 しかし上記の水素エンジンと同様、ガソリンスタンドの代わりとなる「水素ステーション」の設置には数億円という巨大なコストがかかるなどの理由により、大きな普及に至っていないのが現状です。

ミライのフロント部には外部給電アウトレットを装備。非常時には一般家庭の約4日分の電力が供給可能

【水素は危険?】
水素と聞いて「爆発したら危険では?」と思う人もいるはず。しかし水素はガソリンに比べてエネルギーが低く、常温・常圧の場合はガソリンよりも燃焼力や爆発力が低いのです。なお、2011年3月の東日本大震災時に起こった福島原発事故の「水素爆発」は、漏れた水素が建物内で圧縮されて着火し、燃焼・爆発。結論から言えば、仮に自動車に設置された水素が漏れても、基本的に爆発することはありません。

「2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする(日本政府発表)」

2020年10月26日、菅総理大臣は「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする(※注1)、カーボンニュートラルと脱炭素社会の実現を目指す」と表明しました。

※注1:二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量から、森林などによる吸収量を差し引いてゼロにすることを意味しています。

世界では今、電動自動車(EV)の先進国である中国や、環境の保全に積極的なヨーロッパを中心にカーボンニュートラルを目指し、自動車やバイクの電動化(EV化)が進んでいます。

電動化(EV化)にとって重要なポイントとなるのが、電気を蓄えるリチウムイオンバッテリー。蓄電池の小型化を実現したリチウムイオンバッテリーは、日本人の吉野彰さん(受賞時は旭化成の名誉フェロー)の研究チームが開発し、2019年にノーベル化学賞を受賞したことでも有名です。

リチウムイオンバッテリーの開発・発売は、これまで日本、韓国、中国がメイン。しかし2021年現在、価格を抑えた中国が市場を独占。中国製は日本のパナソニック製に並ぶ高い精度を誇り、ヨーロッパを中心にシェアを拡大しています。

クリーンディーゼルが自滅。ハイブリッド車のプリウスは欧州でも人気だが…

トヨタはハイブリッド車の先進メーカー。アメリカはもちろん、ヨーロッパでも、トヨタ・プリウスは高い人気を誇っています。

ヨーロッパはハイブリッド技術に関して後れをとっており、エコカーとして「クリーンディーゼル」をプッシュ。しかし2015年、欧州を代表するドイツの自動車メーカー・フォルクスワーゲンが排出ガスのデータを偽装したのがリークされ、「クリーンディーゼルはクリーンではない」という事実が、世界中に暴露されました。

その結果、フォルクスワーゲンだけでなく、欧州全体のクリーンディーゼル車の信用と売り上げは下落。逆にガソリンとモーターを組み合わせたハイブリッド車は、クリーンディーゼルという大きなライバルが自滅したため、ユーザーに一層評価されました。

ハイブリッドの先駆者・トヨタ プリウス(2021年モデル)

ヨーロッパ=EU諸国は、環境保全の先進国。「環境保全」をスローガンに、さまざまな対策を推進してきた経緯があります。昨今ではアメリカの前大統領・トランプ氏に猛抗議した、スウェーデンの環境活動家で“病的なほど怖い顔”で有名になった女子・グレタ氏も、メディアではすっかりおなじみです。

一方、中国は世界有数のCO2排出国(中国28.2%、アメリカ14.5%、インド6.6% / 2017年JCCCA資料より)。表向きには、環境保全の先進国であるヨーロッパと、世界有数のCO2排出国である最強&最低コンビが「環境保全」を声高に叫び、自動車の電動化(EV化)を主張するのは、ありえなくもない(上記の事実を考慮すれば、十二分に?)ですが…。

しかし近年、中国やヨーロッパが、異常なまでに推し進める自動車の電動化(EV化)の裏には、「リチウムイオンバッテリー市場を独占したい(中国)」と、「クリーンディーゼルの信用がなくなった今、トヨタが築き上げた現在のハイブリッド市場を、電気自動車(EV)によって駆逐したい(ヨーロッパ)」という、中国とヨーロッパの思惑が見え隠れするのも事実です。

特に中国政府に関しては、日本の領土である尖閣諸島への介入、チベットや香港に対する武力による支配、武漢のコロナウイルス流出疑惑などに加え、CO2排出量の現状を見れば、「環境保全のために自動車の電動化(EV化)を」に違和感を感じる人も少なくないかもしれません。

「すべての自動車を電動(EV)に」は現実的でない!?

中国やヨーロッパが唱える、「環境保全のため、すべての自動車の電動化(EV化)は必須」という考えに迎合するかのような菅総理大臣の表明に対し、日本自動車工業会の会長でもあるトヨタ・豊田章男社長は、2020年12月、カーボンニュートラルに関する“覚悟の記者会見”を行いました。以下はその要約です。

トヨタ・豊田章男社長

「2011年の福島原発事故以降、日本ではヨーロッパとは異なり、原子力発電を抑制。2021年現在、火力発電の比率は75%を占める。現時点において、すべての自動車の電動化(EV化)は、電力供給の面では現実的でない。

電気を作る過程で二酸化炭素を排出してしまっては、せっかくのゼロエミッションも意義が薄れる。ハイブリッドを含む内燃機関(ガソリンエンジン)を使いつつ、徐々に電動化を進めていくことが必要ではないか」

つまり、豊田社長は日本政府に、「ふざけるな」と“苦言”を呈したわけです(ほとんどの大手メディアは政府に忖度したのか、大きく扱うことなくスルーしました)。

政府の言う「2050年までに、国内の自動車をすべて電動化(EV化)し、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」は、国の発電状況を鑑み、生き残りを賭け、苦肉の策で世界と戦っているトヨタにとっては、戯言に思えるのかもしれません。

「国内自動車メーカーが置かれいる厳しい現状や、日本の発電事情について、きちんと勉強し、把握してから発言してほしい」、「自分たち(政府)はやることをやらないで、すべてをメーカーに押し付けるようなことを、事情を知らない学者から聞いた受け売りによる思い付きでしゃべらないでほしい」これが本音ではないでしょうか。「メーカー」の部分を、「国民」に変えれば、今のコロナ対策にも同じことが言えるのかもしれませんよね。

トヨタと同じ国内メーカーのホンダ・三部敏宏社長は、2021上海モーターショー開催中の2021年4月23日、東京都内で記者会見し、「2030年には、国内で販売するすべての四輪車を、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)などの電動車に切り替える」と発表。 また2024年には、軽自動車の電気自動車(EV)も投入予定。なお、海外では今後1~3年以内に、主要市場の米国や中国などで新型EVを発売。2040年には世界で販売するすべての車種を、EVか燃料電池車(FCV)にすることを目標としています。

まとめ:トヨタの反撃は、すでに始まっている!

環境保全を大義名分に、中国やヨーロッパが推し進める「すべての自動車を電動化(EV化)する」、「ハイブリッドを含めたガソリン車をすべて排除する」という流れを素直に受け入れてしまえば、現況、火力発電に頼る日本及び日本の自動車メーカーに勝ち目=生き残るすべはありません。

自動車の全面電動化(EV化)は、自動車生産大国である日本の国力衰退を意味します。トヨタは今、ハイブリッド以外のもう一つの武器である、水素で勝負しています。

それらを支援するため、NEDO、東芝エネルギーシステムズ、東北電力、岩谷産業の各社が協力して2018年から福島県浪江町で建設を進めてきた、世界最大級の水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド」が、2020年3月に稼働を開始しました。

世界最大級の水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド」

この施設は再生可能エネルギーを利用し、CO2を排出せず毎時1,200Nm3(定格運転時)の水素を製造。クリーンで低コストな水素製造技術の確立を目標とし、製造された水素は、燃料電池車や燃料電池バス向けのモビリティ用途などに使用されています。

中国やヨーロッパが積極的に仕掛ける、自動車の全面電動化(EV化)というムーブメントに対し、トヨタの“反撃”は、すでに始まっています。水素エンジンを搭載した冒頭のレースカーは、世界最大の自動車メーカーというプライドをかけたトヨタの挑戦であり、宣戦布告ともいえます。

自動車レースの最高峰・F1も開催された国際サーキット「富士スピードウェイ」を走る、水素エンジン搭載マシン

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編集者/ライター

神戸~東京築地~横浜~兵庫姫路~大阪京橋育ち。瓦敷き職人助手、空手師範代助手、ダスキ〇のお掃除部隊等に従事しながら高校・大学を卒業後、旅行グルメの編プロを経て、車やバイクに特化した出版社に勤務。バイク専門サイト「4ミニ.net」運営。 https://4-mini.net/

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