POSTED BY アンダルシア掲載日 JUN 16TH, 2021

【論考】米中対立化する「英中」関係~香港・新疆ウイグル問題も~

比較政治や国際政治経済を専門とする政治学者の筆者が、世界情勢の「今」を論考する当シリーズ。今回は、各国との安全保障協力の強化を進める英国とそれに不信感を高める中国の関係悪化、さらに影響を及ぼすであろう経済・貿易について考える。

目次

中国が不信感を高める英国の動き

米中関係で緊張が走っていることは周知の事実だが、近年は、英国と中国との関係も冷え込んでいる。本シリーズでは、過去にインド太平洋に接近する欧州の論考を紹介したが、英国もインド太平洋に海軍を派遣するなど、日本や米国、オーストラリアなどとの安全保障協力を強化する姿勢を鮮明にしている。これは必然的に中国の英国に対する不信感を高めることになり、両国関係のさらなる悪化が懸念される。

国家安全維持法による香港情勢の変化

PaulWong / Shutterstock.com

近年の英中関係が悪化する出来事となった要因の1つに、香港情勢がある。2020年、香港では国家安全維持法が施行され、その後、民主派団体のメンバーや民主派議員などが相次いで逮捕され、民主的なデモも事実上できなくなっている。それによって日本を含む外資系企業の間では、いつ自分たちが国家安全維持法によって拘束されるかとの不安も高まり、香港からの撤退を進める動きも見られる。

また、英内務省が2021年5月に明らかにした情報によると、英国が今年1月末から受付を開始した香港からの移住者のための特別ビザ(査証)の申請者数が4月末までで3万4,300人に上っているといい、若い世代を中心に数が増えている。

香港で国家安全維持法が施行され、それまでの一国二制度から、事実上、一国一制度になったと指摘されるなか、英国には1997年の香港返還の際に中国と交わした約束(2047年までは香港の高度な自治を維持するとした一国二制度を保障する)が破られたとする不快感がある。今後、香港の中国化は避けられそうにない。

クアッドプラス化による英国の中国離れ

Postmodern Studio / Shutterstock.com

そして、香港情勢で不信感を高めた英国の中国離れはいっそう加速化している。国家安全維持法の施行から半年後の2020年12月、英国は2021年6月のG7先進国首脳会合(サミット)に韓国・オーストラリア・インドを招待し、計10カ国で会談を行う計画を明らかにした。

バイデン政権の発足後、インド太平洋では日米豪印の4カ国に英仏など欧州を加えたクアッドプラスの動きが本格化しているが、2021年のG7サミットのホスト国である英国は、G7に韓国・オーストラリア・インドを加えることで、事実上“G7のクアッドプラス化”を実現させた。ここからも、英国のインド太平洋に関与するという強い意気込みが感じられる。

ちなみに、2021年5月上旬にはサミットの前哨会合であるG7外相会合が実施されたが、そこでも新型コロナパンデミックとともに中国が現在直面する最大の脅威と位置付けられた。

経済・貿易上での摩擦拡大の懸念も

さらに、英国は2021年3月に米国やカナダとともに、中国・新疆ウイグルでの人権抑圧を理由に中国当局関係者へ制裁発動を発表したが、経済・貿易上も中英関係で摩擦が拡大するとの懸念もある。

Gil Corzo / Shutterstock.com

一方、中国側も毅然とした態度で対抗する構えだ。全国人民代表大会(全人代)の常務委員会は2021年6月10日、外国が中国に経済制裁などを発動した際に報復することを可能にする「反外国制裁法」を可決した。同法を巡っては、常務委員会が7日に可決に向けての審議を開始し、本来は夏までに可決される見込みだったが、異例のスピードで可決された。この背景には、習政権が米国や英国などの対中動向を極めて懸念していることがあり、今後対立がさらに激しくある恐れがある。

一方、バイデン政権になってからの米中対立により、日系企業のなかにはウイグル綿花の使用停止を表明したり、米国への製品が輸入差し止めにあったりする企業もみられるが、今後は貿易摩擦の広域化をより注意する必要があろう。今回は中国で可決された反外国制裁法の対象となる“外国”は、事実上、米国や英国と協力関係にある国を指しており、日本も例外ではないのだ。

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ライター/

政治学者 専門分野は比較政治、国際政治経済。特に近年は米中関係や経済安全保障などの日本の国益を左右する研究に従事する。また、学術研究に留まらず、NHKや共同通信、朝日や日経、産経など大手メディアで解説なども行う。

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