POSTED BY アンダルシア掲載日 AUG 11TH, 2021
【論考】台湾と国交を持つ国々へ圧力を高める中国~ワクチン外交と国交断絶政策~
比較政治や国際政治経済を専門とする政治学者の筆者が、世界情勢の「今」を論考する当シリーズ。今回は、中国の働きかけによる、台湾の各国間との国交断絶、外交能力の弱体化の狙いとこれからを考えてみる。
コロナウイルスワクチン提供の解除
南米パラグアイの保健大臣は最近、UAEにある中国医薬集団(シノファーム)の子会社から新型コロナウイルスワクチン100万回分を受け取る契約をしていたが、不可解な理由で一方的に契約を取り消されたと発表した。ワクチンの契約は2021年4月に締結され、5月下旬には25万回分が到着したが、取り消された分の代金は既に返却されたという。
中国はどういう理由で、突然、契約解除を一方的に通告したのか。その理由が分かることが3月にあった。パラグアイ外務省は3月24日、新型コロナウイルスワクチンの提供を中国側から受ける条件として、中国側から台湾との国交断絶を要求されたとの事実を公表した(中国側はこの事実を否定している)。
パラグアイは南米では唯一、台湾と国交を結んでいるが、中国側にはワクチンを提供したがパラグアイに変化が見えないとの判断があった可能性が高い。
中国のアプローチと各国の台湾との国交断絶
中国は、台湾と国交を持つ国々へ積極的にアプローチを掛けている。現在、台湾と国交がある国は、ツバル、マーシャル諸島共和国、パラオ共和国、ナウル共和国、バチカン、グアテマラ、パラグアイ、ホンジュラス、ハイチ、ベリーズ、セントビンセント、セントクリストファー・ネーヴィス、ニカラグア、セントルシア、 エスワティニと、15カ国中9カ国が中南米カリブ海の国で、4カ国が南太平洋の国だ。
特に、中国は 2006 年からの 10 年間で、パプアニューギニアに6億3,200万ドル、フィジーに3億6,000万ドル、バヌアツに2億4,400万ドル、サモアに2億3,000万ドル、トンガに1億7,200 万ドルと、莫大な資金援助を行うことで台湾との国交断交、中国との国交樹立を促している(表立って主張はしないが)。
そして、中国のそういったやり方が功を奏したのか、2016 年 12 月にサントメ・プリンシペ、2017 年6月にパナマ、2018 年5月にドミニカ共和国とブルキナファソ、2018 年8月にエルサルバドルが次々に台湾との国交断交を発表し、正に台湾は断交ドミノに直面しているといえる。
ワクチン外交による台湾の弱体化も
また、コロナ禍以降では、中国はワクチン外交で断交ドミノをさらに活発化させようとしている。その事例が今回のパラグアイのケースであり、現在でも台湾と国交を持つ他の14カ国はその様子を注視していることだろう。
これらの国々の国力(経済力や軍事力、人口など)を調べてみればよく分かるが、多くの国はいわゆる小国で、温暖化により海抜が上昇し、島が沈む脅威に直面する国もあり、大国の経済的支援を必要としている。中国は巨大経済圏構想「一帯一路」によって正にそこを徹底的に突くことで、台湾の外交能力を消そうとしている。
香港国家安全維持法の施行によって、香港は中国本土化への道を突き進んでいる。香港が以前のように自由経済、金融のハブとしての存在に戻ることは現実的に考えて難しい。中国はウイグルやチベット、香港と台湾を絶対に譲ることのできない核心的利益に位置付けているが、現時点で台湾の香港化は難しいことから、まずは前述のような台湾断交政策を重視することになる。
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アンダルシア | |
政治学者 専門分野は比較政治、国際政治経済。特に近年は米中関係や経済安全保障などの日本の国益を左右する研究に従事する。また、学術研究に留まらず、NHKや共同通信、朝日や日経、産経など大手メディアで解説なども行う。 |
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