POSTED BY アンダルシア掲載日 OCT 20TH, 2021
【論考】緊張が高まる台湾情勢~日本が準備しておくべきこととは~
比較政治や国際政治経済を専門とする政治学者の筆者が、世界情勢の「今」を論考する当シリーズ。今回は、緊張が高まる中国・台湾関係と、それを取り巻く世界情勢、日本が備えておくべきことを考える。※写真はすべてイメージです
中国の台湾侵攻はあるのか
中台関係の緊張がこれまでになく高まっている。トランプ政権で国家安全保障担当の大統領補佐官を務めたハーバート・マクマスター氏は2021年10月4日、所属するハドソン研究所での演説で、中国軍による台湾侵攻の恐れについて、来年2月の北京冬季五輪終了後に危険な時期に入るだろうと懸念を示し、ロシアが2014年のソチ冬季五輪後にクリミア半島の併合に踏み切ったように、中国も北京五輪後に台湾への威嚇をさらにエスカレートさせる恐れがあると言及した。
中国軍機が台湾の防空識別圏に侵入することは以前からあったが、2021年10月初めから4日までの間に中国軍の戦闘機や爆撃機149機あまりが侵入するなど、これまでないほど中国による威嚇がエスカレートしている。
欧米との関係緊密化を進める台湾
台湾の蔡英文政権は、中国によるそのような威嚇に対して強い懸念を表明し、欧米との関係緊密化に努めている。10月に入り、元フランス国防相が率いる上院議員6人と、オーストラリアのアボット元首相が相次いで台湾を訪問し、政治経済的な連携を深めていくことで一致した。フランスはニューカレドニアなど南太平洋に海外領土を持っており、中国の南太平洋への進出を強く警戒しており、インド太平洋構想で米国や日本などとの関係を緊密化させようとしている。
オーストラリアも新型コロナウイルスの真相解明や人権問題を巡り中国との関係を悪化させ、近年はオーストラリア産の牛肉やワインが中国から輸入停止に遭っている。台湾も欧米諸国も、対中国でタグを急速に強化している。
インド太平洋で中国優位となるか
このような情勢のなか、最近、各国国防部や有識者たちから聞こえてくるのは、台湾進攻に関する具体的な数字だ。前述のマクマスター氏のように、最近そういう発言が絶えない。たとえば、2021年10月6日、台湾国防部の邱国正部長は立法院の会合の席で、「2025年には中国が台湾を全面的に侵略することが可能になる」として、中国への警戒感と台湾の軍備を強化する必要性を訴えた。台湾国防部は中国軍による威嚇を真剣に受け止め、国防費増額と欧米との連携を加速化させている。
また、2021年3月、米インド太平洋軍のデービッドソン司令官は、上院軍事委員会の公聴会で、6年以内に中国が台湾に進攻する可能性があり、インド太平洋で米中の軍事力逆転が生じ、中国優位の環境が予想より早く到来する恐れがあると指摘した。
日本の安全保障にも懸念が
これら3氏のようなシナリオが現実のものになるのかは定かではない。しかし、中台間で歩み寄りが見えるどころか不和がいっそう拡大し、米中の軍事バランスが大きく変化している状況においては、偶発的な衝突によって情勢が一気に緊迫化する可能性は排除できない。
そして、日本もこの情勢をこれまで以上に真剣に考える必要がある。仮に台湾で有事が発生すれば米軍が何かしら関与することになろうが、距離的に考えて、米軍の出発場所は沖縄本島になる。そうなれば、中国軍による在沖縄米軍基地への軍事攻撃は現実的に考えられ、それは同時に日本領土が侵害されることを意味する。台湾有事は日本の安全保障とセットであることを十分に熟知しておく必要がある。
中国の習近平国家主席は2021年10月 9日、辛亥革命110周年記念大会で演説し、台湾統一は必ず達成しなければならないと改めて強い意志を示した。香港では国家安全維持法が施行され、民主派勢力の弱体化が進むなど、香港の中国化には歯止めが掛からない状況となっている。
習政権は“次は台湾”と勢いをつけていることは間違いない。台湾には2万人の日本人が滞在する。時期尚早かも知れないが、台湾で有事が発生すれば在台湾邦人の安全が脅かさせる可能性もあるので、今のうちから邦人保護や退避というシナリオも十分に検討しておく必要があろう。
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アンダルシア | |
政治学者 専門分野は比較政治、国際政治経済。特に近年は米中関係や経済安全保障などの日本の国益を左右する研究に従事する。また、学術研究に留まらず、NHKや共同通信、朝日や日経、産経など大手メディアで解説なども行う。 |
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