POSTED BY アンダルシア掲載日 NOV 17TH, 2021

【論考】米国のアフガン撤退の意義とは~続く各国でのテロの脅威~

比較政治や国際政治経済を専門とする政治学者の筆者が、世界情勢の「今」を論考する当シリーズ。今回は、アフガニスタンからの米軍の完全撤退と、いまだ続くテロの脅威、高まるイスラム国への懸念を考えてみる。※写真はすべてイメージです

目次

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米軍の完全撤退で見えたものとは

2021年夏、バイデン政権はアフガニスタンからの米軍完全撤退を完了し、テロとの戦いの終焉を宣言した。バイデン大統領は、「生産性がない戦いでこれ以上若い米兵を死なさない」、「アフガニスタンの将来はアフガン人の責任で主導されるべきだ」との認識のもと、今後は中国に重点を移すことを強調した。

しかし、それから2カ月以上が経過するなか、対テロ戦争は終わったかも知れないが、米国が警戒するテロの脅威は依然としてなくなっていない。たとえば、アフガニスタンにおいては、イスラム国の脅威がむしろ高まっている。

Mohammad Bash / Shutterstock.com

アフガニスタンで活動するのはイスラム国ホラサン州という地域支部だが、イスラム国のホラサン州は米軍撤退直前、カブール国際空港付近で大規模なテロが発生し、米兵13人が犠牲となった。その後も、イスラム国ホラサン州はタリバンやシーア派権益などを狙ったテロを繰り返し、タリバンは同組織への対処で苦慮している。

イスラム国系武装勢力の勢い

最近では、旧民主政権でタリバンと対峙してきた兵士や情報機関職員の一部がイスラム国系武装勢力に参加していることが明らかとなり、軍事経験が豊富で機密情報に触れてきた兵士や情報機関職員が同武装勢力に流れることで、イスラム国系ホラサン州が組織的に勢いづく恐れも指摘される。

Crush Rush / Shutterstock.com

米当局も2021年10月下旬、イスラム国ホラサン州が半年から1年以内にアメリカを攻撃する能力を獲得する恐れがあると指摘し、米軍撤退によって現地情報を入手することが困難になることを強く懸念している。バイデン政権はアフガニスタンでドローンによるピンポイント攻撃(Over the horizon strategy)を今後継続する計画で、隣国のパキスタンやタジキスタンと軍事情報上の関係を強化しようとしているが、どこまで上手くいくかは不透明な状況だ。

支配地域を失うが各地で活動を継続

イスラム国の脅威はアフガニスタンだけではなく、依然として各地で攻撃を続けている。イラクとシリアで最大英国領土に匹敵する領域を支配下に置いたイスラム国は、今日では支配地域を失っている。しかし、今でも両国では1万人規模のイスラム国戦闘員が生き残り、小規模なものが大半だが、軍や警察への襲撃などを繰り返している。

最近でも、2021年10月下旬に首都バグダッドに近いイラク中部ディヤラ県で銃撃事件があり、11人が死亡、15人が負傷した。事件後、イスラム国が犯行声明を出した。また、7月、イスラム国はバグダッドのシーア派地区で大規模な自爆テロを実施し、35人以上が死亡、60人以上が負傷した。

アフリカで増すイスラム国の脅威

今後の情勢を踏まえると、最も懸念されるのがアフリカだろう。2021年10月以降、アフリカ中部の国ウガンダではイスラム国を支持する武装勢力によるテロが見られるようになった。

例えば、首都カンパラ郊外にあるレストランでは10月23日、即席爆破装置を用いた爆弾テロ事件があり、少なくとも1人が死亡、7人が負傷し、コンゴ民主共和国の東部やモザンビークの北部でテロを繰り返すイスラム国の中央アフリカ州(ISCAP)が犯行声明を出した。ISCAPがウガンダに浸透していることが考えられ、ウガンダ当局も現地日本大使館も注意を呼び掛けている。

実際、2021年10月に英国とフランスはウガンダにおけるテロに注意するよう自国民に呼び掛ける警戒情報を発信した。また、ナイジェリアでは北東部を拠点にイスラム国の西アフリカ州(IAWAP)がテロや誘拐を繰り返しているが、最近、現地情報でシリアとリビアからやってきた支持者200人あまりが傭兵として加わったとみられる。今年、北東部ではイスラム過激派ボコハラムの指導者が死亡し、ボコハラムの戦闘員がISWAPに加入しており、ISWAPの活動がさらにエスカレートすることが懸念されている。

イスラム国情勢では、今日アフガニスタンに世界のメディアの注目が集まっているが、世界ではイスラム国ネットワークは依然として各地で治安上の懸念材料となっている。米軍のアフガンからの撤退という問題は、こういった現実からもその意義が問われている。

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アンダルシア
ライター/

政治学者 専門分野は比較政治、国際政治経済。特に近年は米中関係や経済安全保障などの日本の国益を左右する研究に従事する。また、学術研究に留まらず、NHKや共同通信、朝日や日経、産経など大手メディアで解説なども行う。

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