POSTED BY アンダルシア掲載日 SEP 15TH, 2021

【論考】各国へ飛び火するアフガニスタンのテロリスクとは

比較政治や国際政治経済を専門とする政治学者の筆者が、世界情勢の「今」を論考する当シリーズ。今回は、暫定政権の樹立を宣言したタリバンと新内閣の組織、それによるテロ活動の活発化の恐れなどを考えてみる。
※写真はすべてイメージです

目次

タリバンによる暫定政権樹立とその内容

タリバンはアフガニスタンの支配に向けて着実にプロセスを進めている。タリバンは2021年9月7日、暫定政権の樹立を宣言し、新内閣の閣僚ポストを発表した。しかし、それを見る限り、タリバンは諸外国が求めるテロ組織との関係断絶や女性の人権改善などには消極的に見える。

タリバンは、国連の制裁対象に指定されている幹部の1人モハマド・ハサン・アフンド師を首相に、米連邦捜査局が指名手配しているイスラム武装組織ハッカニ・ネットワークの指導者兼タリバンの副指導者のシラジュディン・ハッカニ氏を内相に指名、タリバン共同創設者のアブドゥル・ガニ・バラダル師を副首相に、タリバンの創設者で最高指導者だった故オマル師の息子ヤクーブ師を防衛相にそれぞれ指名した。また、タリバンの最高指導者ハイバトゥラー・アクンザダによる英語の声明文も公表され、イスラム教のシャリアに基づく国家統治を行っていくことが明らかになった。

アフガニスタンからグローバルに拡大しうるリスクとは

今後の動向は未だに予測が難しいが、アフガニスタンで米軍を含む欧米権益を標的としてきたハッカニ・ネットワークの幹部が閣僚ポストに就いたことは、タリバンがハッカニ・ネットワーク、そしてそれと密接な関係にあるアルカイダと関係を断つ意思がないことを想像させる。仮に、このままの環境でタリバン政権の運営が進めば、米国などが懸念するイスラム過激派がアフガニスタン国内でこれまで以上に表面化し、そのリスクがグローバルに拡散する恐れがある。

しかし、既に国によってはそのリスクへの警戒を強めている。たとえば、日本とも距離の近いインドネシアでは、歴史的にアルカイダと関係があるイスラム過激派「ジェマーイスラミア(JI)」や、イスラム国を支持する「ジェマ・アンシャルット・ダウラ(JAD)」などが活動しているが、同国の治安機関は、タリバンの実権奪還によってJIやJADが士気を高めテロ活動を活発化させるのではないかと、ネット監視を含め警戒している。インドネシアでは、8月にも同国の独立記念日を狙ったテロを計画していた容疑で53人が逮捕され、うち50人がJIのメンバーで3人がJADのメンバーだった。

フィリピンでも南部を中心にアルカイダやイスラム国系組織が活動しており、フィリピンの治安当局もミンダナオ島を拠点とするイスラム過激派の動向を注視している。また、マレーシアは、最近タリバンがカブールで拘束したイスラム国系組織の戦闘員6人のうち2人がマレーシア人だったという報道が出たことで、国内にいる過激派分子がタリバンの実権奪還によって士気を高める恐れを含め、その動向を警戒し始めている。

欧米にも広がるリスクの懸念

一方、その動きは欧米諸国でも見られる。たとえば、英国の情報機関は7月、イスラム過激思想の影響を受けた英国人がアフガニスタンに渡ってアルカイダなどに参加し、帰国した後に国内でテロを実行する恐れがあるだけでなく、アルカイダなどは外国軍の完全撤退を自らの勝利と認識し、ネット上での広報活動を活発化させ、英国内に潜む過激派分子が刺激を受け単独でテロを起こす危険性があると懸念を示した。

9.11以降、2005年7月のロンドン同時多発テロや2017年5月のマンチェスターアリーナ自爆テロのように、英国内では過激派分子が関連するテロ事件が断続的に発生してきた。しかし、この種のテロは他の欧州諸国や米国、オーストラリアでも発生する恐れがあり、欧米各国の治安当局は警戒し始めていることだろう。

現在、アフガンのテロリスクが各国に具体的に飛び火しているわけでない。しかし、ネットやSNSが世界的に普及している今日、そのリスクは一瞬で飛び火する恐れがある。今後タリバンと諸外国との間で溝が深まっていけば、このリスクはより表面化してくるだろう。

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アンダルシア
ライター/

政治学者 専門分野は比較政治、国際政治経済。特に近年は米中関係や経済安全保障などの日本の国益を左右する研究に従事する。また、学術研究に留まらず、NHKや共同通信、朝日や日経、産経など大手メディアで解説なども行う。

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