POSTED BY アンダルシア掲載日 JUN 30TH, 2021

【論考】中国が反外国制裁法を可決~日本への影響とは~

比較政治や国際政治経済を専門とする政治学者の筆者が、世界情勢の「今」を論考する当シリーズ。今回は、2021年6月11日に中国・習政権が可決した「反外国制裁法」による影響と日本企業の間で高まる懸念について考える。

目次

民主主義諸国と中国の対立

Gil Corzo / Shutterstock.com

英国で2021年6月11日から13日までG7サミットが開催されたが、首脳声明では新疆ウイグル自治区での人権問題や香港、台湾問題への懸念が示され、民主主義諸国と中国との対立に歯止めが掛からない状況となっている。最近は米国だけでなく、英国やオーストラリアと中国との関係もこれまでなく冷え込み、韓国までもがバイデン政権に歩み寄る姿勢を見せている。

そのようななか、全国人民代表大会の常務委員会は2021年6月11日、外国が中国に制裁を発動した際に報復することを可能にする「反外国制裁法」を可決した。この法律は6月7日の時点で同常務委員会が可決に向けての審議を開始し、夏までに可決される見込みだったが、異例のスピードで可決された。

中国が可決した「反外国制裁法」

反外国制裁法は、中国が外国政府から不当な制裁や内政干渉などを受けた場合、中国がその関係者たちへ入国拒否や国外追放、中国国内にある資産凍結、中国企業との取引停止などの措置で対抗することができると明記している。今年に入り、新疆ウイグルにおける人権問題を巡り、米国や英国、カナダなどが一斉に中国に制裁を発動したが、今回の反外国制裁法によって、中国が今後報復的な対抗措置を強化してくることが考えられる。

Ron Adar / Shutterstock.com

反外国制裁法と書かれているがこれは政治的な意味が強く、外国と書かれているものの、米国とその友好国や同盟国を事実上指している。バイデン政権は多国間的な枠組みで中国に対抗しようとしているが、習政権としては今後の情勢を踏まえて、どの国が“外国”に値するかを日々見極めていくことだろう。

また、反外国制裁法では何が内政干渉や不当な制裁に当たるかが具体的に明記されておらず、その範囲も明確でない。要は、反外国制裁法の対象となるかどうかは習政権の判断となり、それは去年施行された香港国家維持法においても同様だ。習政権には具体的明記を避けることで外国をけん制した狙いがある。

第3国も報復処置対象の可能性も

さらに、反外国制裁法は、“外国政府による不当な制裁に第3国も加担すればその国にも報復措置をとれる”と明記している。これは日本経済や在中邦人の安全・保護という観点から注意が必要である。

菅政権はインド太平洋構想を重視し、米国やインド、オーストラリアとの協力枠組みクアッドを強化しているが、中国との必要以上の関係悪化は避けたいのが本音だ。日本は米中対立の狭間で難しい立場にあるが、依然として中国は日本にとって最大の貿易相手国であり、日中経済摩擦は日本経済にとって大きなダメージとなる。

しかし、第3国に該当するかどうかを決定するのは習政権であり、米中対立のなかで日本は米国側だと判断されれば制裁対象となり、今後の情勢の行方を考慮すればその可能性は十二分にあろう。

日本の経済・安全保障の行方

反外国制裁法によってどのような対抗措置を受けるかは分からないが、2010年の尖閣諸島での中国漁船衝突事件の際、中国は日本に対してレアアースの輸出制限に打って出たことがある。現在、バイデン政権はレアアースや半導体など重要インフラの脱中国化とサプライチェーン強化を進めているが、中国がそういった経済安全保障にかかわる部分で制裁として揺さぶりを掛けてくる可能性がある。

また、米中対立によって日中関係がさらに悪化すれば、反外国制裁法に基づいて在中邦人の不当拘束が発生しやすくなるかもしれない。大手ゼネコン・フジタの社員たちなど、これまでも中国では理由や背景が分からないまま日本人が拘束されるケースが断続的に続いている。

今回、反外国制裁法が異例にスピードで可決された。これは習政権が米国との競争で妥協する姿勢はないことを示すことであり、同法が如何に使用されていくかを注視していく必要がある。

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アンダルシア
ライター/

政治学者 専門分野は比較政治、国際政治経済。特に近年は米中関係や経済安全保障などの日本の国益を左右する研究に従事する。また、学術研究に留まらず、NHKや共同通信、朝日や日経、産経など大手メディアで解説なども行う。

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