POSTED BY オオモト ユウ掲載日 JUL 25TH, 2021

【釣りの今を斬る】釣りの世界をザワつかせ続ける水辺の外来種問題(vol.3)

これまで2回にわたって日本における外来種問題について、その概要を解説してきた。個々の生物の定着度や侵略度に応じてさまざまな区分がされ、その拡大を防ぐ施策がとられていることがおわかりいただけたはずだ。今回は、外来種問題において特に話題となる頻度が高い「特定外来生物」にスポットライトを当ててみたい。釣り人から熱狂的な人気を集める対象でありながら、国からは「特定外来生物」に指定されているという複雑怪奇な現実・・・。その実状について具体的な魚種を挙げて解説していきたい。

目次

外来種問題のメインテーマ「特定外来生物」とは?

「特定外来生物」とは、外来生物(海外起源の外来種)であって、生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすもの、又は及ぼすおそれがあるものの中から指定されます。
特定外来生物は、生きているものに限られ、個体だけではなく、卵、種子、器官なども含まれます。

出展:環境省

「特定外来生物」については、この問題を所管している環境省のホームページにおいて上記のように定義されている。2005年6月より施行された「外来生物法」(正式名称:「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」)によって定義・指定が行われ、これによって法の根拠に基づいた対策が講じられることとなった経緯がある。

2021年7月現在の指定種は以下の156種。ただ、リストへの追加検討も引き続き行われており、今後も指定は増加傾向となりそうな情勢である。

  • 哺乳類25種(アライグマ・キョンなど)
  • 鳥類7種(カナダガンなど)
  • 爬虫類21種(カミツキガメ、タイワンハブなど)
  • 両生類15種(ウシガエルなど)
  • 魚類26種(02にて後述)
  • 昆虫類25種(セイヨウオオマルハナバチなど)
  • 甲殻類6種(ウチダザリガニなど)
  • クモ・サソリ類7種(セアカゴケグモなど)
  • 軟体動物等5種(カワヒバリガイなど)
  • 植物19種(アレチウリなど)

なお、「外来生物法」ではその取り扱いについて細かい規定が定められており、違反者には罰則が科される。その詳細については次回に詳しく説明したい。

特定外来生物の代表種として取り上げられる機会が多いアライグマやカミツキガメ。いずれも飼育個体の脱走や意図的な遺棄が国内定着の原因とされる(写真提供:環境省)

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釣り人からは人気なのに・・・「特定外来生物」指定の4魚種

先に挙げたリストにおいて最多の指定を受けているのが魚類。いずれも河川や湖沼といった淡水域において生息が確認され、種によっては自然環境に乏しい都市河川にまでその勢力が拡大している。

そのなかでも下の4種は生息が広範に及び、釣りの対象魚としても定着している。魚種ごとの特徴や移入・拡大の経緯を個別に見ていきたい。

【オオクチバス】

オオクチバスは26種が指定されている特定外来魚の代表的存在。ただ、釣り人から人気が高いこともあって、その扱いについて各方面からの議論が続いている(写真提供:環境省)

“ルアー”と呼ばれる疑似餌を使った釣りの人気ターゲット。一般的には後述するコクチバスを含めて“ブラックバス”と総称されているが、釣魚としての人気が高まるにつれてコクチバスと区別するために“ラージマウスバス”とも呼ばれている。

60〜70cmまで成長し、魚類や甲殻類、昆虫類、両生類に至るまで水辺に住む小動物を旺盛に補食する。基本的には川や湖沼に生息するが、海水と淡水が入りまじる汽水域でも生存が可能とされる。原産は北アメリカ南東部。

日本へは大正末期に神奈川県の芦ノ湖に移入されたのを機に、人為的な移植が繰り返されて分布が広がった経緯がある。2021年現在、北海道や沖縄を含む日本全国で捕獲の実績がある。

【コクチバス】

オオクチバスの生息には適さない低水温域や流れが速い場所にも生息が可能なコクチバス。やはり肉食性が強く、ルアーフィッシングのターゲットとして釣り人から人気がある(写真提供:環境省)

オオクチバスと同じくサンフィッシュ科に分類される淡水魚で、やはり北アメリカから移入されて国内に定着。その名の通り、オオクチバスよりも口が小さく、大きいものでも50cm程度とやや小ぶり。ただ、鋭い引きで激しく抵抗することから、こちらを専門に狙うファンが増えている。

オオクチバスと比較して国内における生息域は限られるものの、低水温や流水域への高い適応力は前者にはない強みである。ゆえに高地の湖や河川内も生息域として計算でき、実際に多摩川や荒川水系での拡大が確認されている。

国内での主な生息地は長野県の野尻湖や福島県の桧原湖。これらの場所では、コクチバスを対象にした釣り大会が催され、観光資源として利用されている。

【ブルーギル】

環境への適応力や繁殖力、雑食が強い食性などにより、ブラックバスよりも拡大が問題視されているブルーギル。実は食味がよく、戦後の食糧難を救う存在として期待された時期もあったほど

上記2種と同じ北アメリカ大陸にルーツを持ち、やはりサンフィッシュ科に分類される小型魚。最大で30cmほどまで成長する。水草や構造物の周りを好んで生息する。小型の水生動物や動物プランクトン、魚卵に至るまで幅広く補食する雑食性が特徴。環境への適応力に優れていて水質悪化にも比較的強いことから、東北地方の一部を除いてほぼ全国的な生息が確認されている。

他の3種と比較して、国内への移入の経緯が特異な点も話題にされる。

1960年、当時の皇太子明仁親王(現在の上皇陛下)が外遊された際に寄贈された個体が国内における起源とされ、陛下自身も2007年に滋賀県で行われた「第27回全国豊かな海づくり大会」において、当時のことを振り返るご発言(※1)をされている。

その際に送られた個体は研究施設へ送られたものの、時を経て自然界に定着。現在では小さなため池や用水路といった細部まで入り込んで、全国区の存在となっている。他の3種よりも小型なせいか、オオクチバスなどにとっては格好の補食対象となっている事実は実に皮肉である。

【チャネルキャットフィッシュ】

国内での歴史はまだ浅いものの、今後の拡大が危惧されるチャネルキャットフィッシュ。大型化するうえに小魚や貝類を旺盛に補食するため生態系への影響が大きい

上記の3種と比較して一般的な知名度で劣るものの、1m程度まで大型化することから近年問題視されている北アメリカ大陸原産のナマズ。釣り人の間では“アメリカナマズ”、“キャット”、“アメナマ”などと呼ばれて長らく邪魔者扱いをされていたが、最近は専門に狙う人が増えつつある。

1970〜1980年代に養殖用として霞ヶ浦水系に持ち込まれた種苗が国内における起源とされる。現在の主な生息地は利根川や霞ヶ浦周辺、関西では琵琶湖など限られた地域・水系であり、上記の3種ほどには拡大していない。ただ、この段階で指定を受けていることは危機感の表れでもあり、今後ますます問題視される可能性がある。

現状では食用としての利用は少ないものの、きれいな白身は食材として優秀であることが認められている。ムニエルやフライでおいしく食べられることから、霞ヶ浦周辺ではその身を使った『行方バーガー』をご当地B級グルメとして盛り上げる動きがある。

身近な水辺に存在する「特定外来生物」予備軍

前項で釣り人になじみ深い代表的な指定4魚種を紹介したが、特定外来生物のリストは追加検討が適宜行われている。

折しも2021年7月初旬、「2種について新たな指定を検討」との動向が報道された(※2)。その対象となったのは、“ミドリガメ”と称した幼体が長く販売されてきたアカミミガメ(特にミシシッピアカミミガメ)とアメリカザリガニ。

釣りの対象ではないものの、身近な水辺の生き物として多くの人になじみ深いアカミミガメとアメリカザリガニ。将来的には飼育などに規制がかかる可能性も

どちらも昭和後期〜平成には飼育などの対象として身近な存在であったが、同時に生態系や農業への影響が議論され続けてきた。言わば“曰く付き”の存在であったのだが、ここにきてリスト入りが本格検討され始めている。近い将来、その取り扱いについて法的な規制がかかる可能性は否定できない。

※1 https://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/okotoba/okotoba-h19e.html#D1111
※2 https://www.sankei.com/article/20210707-6ZIVTI73GNN5BHVQT36OWLWZTY/

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オオモトユウ
編集者/ライター/フォトグラファー

スポーツウエアメーカー勤務、雑誌編集などを経てフリーライターに。好きなことを仕事に選び続けた結果、周囲からは「ラクをして生きている」と思われているのが悩み。四国、北海道については愛車で単独周遊済みなので、九州に照準を定めている。旅先での酒場巡りとノルウェー旅行の再開に思いを募らせる日々。

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