POSTED BY アンダルシア掲載日 DEC 22ND, 2021

【論考】経済安全保障から見る地政学リスクに企業はどう対処すべきか？

比較政治や国際政治経済を専門とする政治学者の筆者が、世界情勢の「今」を論考する当シリーズ。今回は、近年注目されるようになった「経済安全保障」と「エコノミックスステイトクラフト」について解説しながら、それらが具体的に日本企業にどのような影響を及ぼすのかを考えてみる。※写真はすべてイメージです

よく耳にする「経済安全保障」とは？

前回の記事では、2021年の世界情勢から企業がどのような影響を受けたかを説明したが、今回はそれについて総論的な立場からお伝えしたい。近年、世論では「経済安全保障」という言葉が盛り上がっているが、岸田政権になって以降、経済安全保障はさらに重要性が増している。しかし、この言葉が具体的に指す意味や範囲についてはあまり議論されず、一人歩きしている感じが否めない。企業のなかには、経済安全保障によって自らの経済活動が制限されると懸念している人も少なくないだろう。

では、そもそも経済安全保障とは何なのだろうか。簡単に言うと、国の繁栄や発展にとって必要不可欠な資源や技術、情報を諸外国に奪われないよう、それを守ることを意味する。具体的には、半導体やAIなどの最新技術、テクノロジー情報などで、それを自国の国益として守ることで国家の繁栄を維持することを目的とする。ソニーと台湾の半導体大手TSMCが半導体工場を熊本県に作ろうとし、岸田政権がそれに多額の支援を実施することは、正に日本の経済安全保障政策にあたる。

「エコノミックスステイトクラフト」との違いは？

また、経済安全保障が議論される時には、同時に「エコノミックスステイトクラフト」という言葉がしばしば使われる。しかし、これは経済安全保障とは少し概念が異なり、簡単にいえば、敵対する国家を攻撃するために経済的手段を用いるということだ。最近では、中国が関係の悪化する台湾に対して、突然台湾産パイナップルの輸入を停止したり、オーストラリア産のワインや牛肉の輸入停止に踏み切ったりしたケースがこれにあたる。また、バイデン政権が人権問題で中国企業などに経済制裁を連発したケースもこれにあたるだろう。

政治と経済は表裏一体

経済安全保障とエコノミックステイトクラフトは、海外で活動する企業が直面するリスクのなかでは地政学リスクになる。グローバル経済のなかで企業が注視すべきリスクは、雇用リスク、法務リスク、生活リスク、医療リスク、情報システムリスクなど多岐にわたり、地政学リスクはその1つでしかない。

企業にとっての地政学リスクとは、「輸出入制限や関税引き上げ、人権デューデリジェンスなど会社全体の利益に悪影響を及ぼす、また経済活動を制限する恐れのあるリスク」、または「暴動や抗議デモ、テロや戦争など、現地に滞在する駐在員や出張者（その帯同家族を含む）の仕事や生活に悪影響を及ぼす恐れのあるリスク」などと定義できるが、同リスクは、瞬時もしくは短いスパンで一気に爆発する可能性を内在している。おそらく今年のように、地政学リスクというものは来年も何かしらの形で表面化し、企業の経済活動に影響を与えてくることだろう。そのためにも、企業には、政治と経済は表裏一体であるという現実を理解し、地政学リスクの動向を日々注視していく姿勢が求められている。