POSTED BY オオモトユウ掲載日 JAN 1ST, 2022

縁起のよさで日本人に愛される「出世魚」とは？【釣り入門講座vol.8】

新年を迎え、決意を新たにする人も多いはず。「八百万」と評されるほど物事の森羅万象に神を認め、古くから縁起担ぐことを好む日本人は、魚に対してもその願いを込めてきた歴史がある。その象徴ともされるのが「出世魚」だ。その定義には諸説あるが、ここでは代表的な魚種をいくつか紹介したい。この時期に釣期が合致しない種もあるものの、地域によっては正月に立身出世を願って食する習慣もあり、運気向上を願って買い求めるのもおすすめだ。

そもそも「出世魚」って何物？【縁起物と称されるその定義とは】

広辞苑で「出世魚」の意味を調べてみると、以下のような記述がなされている。

成長するに従って、名のかわる魚。鯔_（ボラ）・鱸_{（スズキ）}・鰤_（ブリ）の類。

辞書によってはさらに詳細に言及しているものもあるが、要は魚体が大きく成長するのに合わせて名称が変わる魚のことを指す言葉である。

これが出世に通ずると考えるのは、江戸時代以前の風習が大きく関係しているそうだ。当時の武士や学者の家系では、現代での成人を意味する「元服」という儀式があり、着物を大人仕様に変更する倣わしが定着していた。また出世の折に名前を変える風習もあり、「成長」「改名」が縁起の良いものとみなされていたようである。

そういった考え方が基になり、成長とともに名を変える魚を「出世魚」として珍重してきた歴史がある。地域によっては正月にブリを食べる習慣があるなど、祝い事や節目に食べる縁起物とされており、その文化は日本人の意識に根付いているのだ。

食卓でも大人気！出生魚の代表3種

ここからは、そんな出世魚の代表的な魚3種を紹介したい。

ブリ

【40cm以下】
ワカシ（東日本）
ツバス（西日本）
【40〜60cm】
イナダ（東日本）
ハマチ（西日本）
【60〜80cm】
ワラサ（東日本）
メジロ（西日本）
【80cm以上】
ブリ（ほぼ全国共通）

このほかにも大きさや地方によって多くの呼称があり、長らく日本人に愛されてきたブリ。出世魚の代表とされ、その食味の良さと豊富な資源量もあって、さまざまな料理法で楽しめる。

「寒ブリ」などと呼ばれるように、地域によっては冬場に脂ののった大型が網に掛かる。そのため、北陸以西の西日本ではおせち料理に照り焼きが入ったり、雑煮の具としても使われたりと、正月用の食材として欠かせない存在になっている。

スズキ

【40cm以下】
セイゴ
【40〜60cm】
フッコ
ハネ（主に関西）
【60cm以上】
スズキ
【その他の呼び方】
マダカ（マタカとも。愛知県など東海地方。60cm以下を「セイゴ」と呼びそれ以上を指す）

身近な港湾部や河口にも多く生息し、最大で１m近くまで成長するスズキ。近年はルアーで釣れるゲームフィッシュとして人気を集めており、特に全国でも屈指の魚影を誇る東京湾では、一年を通して追いかける熱心なファンも多い。

味わいのあるきれいな白身は食材としても珍重され、薄切りにした身を氷水にさらした「洗い」、骨や頭部からの濃厚なダシを味わう「潮汁」で楽しめる。

ボラ

【幼魚】
ハク
【〜10cm程度】
オボコ・スバシリ
【10〜25cm】
イナ
【25~50cm】
ボラ
【50cm以上】
トド
【その他の呼び方】
イキナゴ→コボラ→イナ→ボラ→オオボラ（高知など）
コツブラ→ツボ→ミョウゲチ→ボラ（東北地方）

北海道以南の海域に広く生息し、上げ潮に乗じて河川内にも入り込むボラ。水面付近を悠然と泳ぐことから、目にする機会も多いのではないだろうか。水質汚染にも強く、ときには都市河川で大群が見られるなど、人間の生活圏にも入り込んでいる。

地域によってさまざまな呼称が存在し、それが大きさによっても異なることから、その名が挙がる出世魚の代表種。外洋で獲れた個体はきれいな白身で、「鯛にも勝る」との声も上がるほど。また卵は加工されて「カラスミ」として重宝されるなど、食材としての活用も古くから行われている。

その身近さゆえに現代でも使われる言葉にその名残があり、以下のような言葉はボラに由来するものである、

●とどのつまり
→ボラとしては最大を示す呼称ゆえ「これ以上大きくならない」という意味が転じて「結局」「行きつくところ」を表す言葉となった

●いなせ
→青くてザラっとした小型のボラの背が、若い男性の剃り上げた頭部に似ていたことから「男気があって粋でさっぱりしたさま」を表す言葉として定着した江戸言葉

●おぼこい
→ボラの幼魚を表す「オボコ」から転じて、子どもの幼さや可愛さを表す言葉となった

出世魚にカウントされる場合もある、成長で名称が変わる魚3種

上で紹介した3種の他にも、出世魚にカウントされることがある、成長で名称が変わる魚3種を紹介する。

クロダイ

【〜25cm】
チンチン
【25〜35cm】
カイズ
【35cm以上】
クロダイ
【50cm以上】
ビッグママ、年無しなど

磯や堤防から釣れる人気の釣りターゲット。体形はマダイに似ているが、内湾や汽水域にも生息するなど、その生態は大きく異なる。

西日本ではほぼ「チヌ」で通じるが、関東を中心とした東日本では大きさによって呼び名が変わる出世魚に数えられる。江戸時代には庄内藩（現在の山形県）において武士の鍛錬の一貫としてクロダイ釣りが奨励された歴史もあり、現在でもその存在を特別視する釣り人は多い。

コノシロ

【〜5cm】
シンコ
【5〜10cm】
コハダ
【10〜15cm】
ナカズミ
【15cm以上】
コノシロ

コノシロという魚名を聞いてもピンとこない人は少なくないはず。しかし、「コハダ」となればその認知度はグンと上がるだろう。寿司ネタとして人気のコハダはコノシロの幼魚を指す言葉であり、やはり大きさによって呼び名が変わるため出世魚として扱われることがある。

ただ、ほかの魚と異なるのは、大きく育つと食用としての価値が落ちること。成長するほど小骨が当たるようになり、鮮度落ちも速いことから食用としての価値は下がる傾向にある。また、腹開きにして調理することから、江戸以前の武士社会では切腹をイメージする魚として嫌われた歴史も。焼いた際に生じる独特の臭気が「人体を焼いたような臭い」とされ、縁起が悪いとされた過去もある。庶民には食されていたものの、そういった経緯からブリやスズキのように出世魚の代表種としては扱われないことが多い。

サワラ

＜関東＞
【〜50cm】
サゴシ（サゴチ）
【50cm〜】
サワラ
＜関西＞
【〜50cm】
サゴシ（サゴチ）
【50〜70cm】
ヤナギ（ナギ）
【70cm〜】
サワラ

サバに似た背の模様と長細い魚体、鋭い歯が特徴の回遊魚。温暖な海に生息し、西日本が産地とされていたが、近年は東京湾などでも漁獲が増えている。塩焼きや西京焼がおいしい魚で、引き味も強いことから釣りのターゲットしても人気が高い。

ここで取り上げたほかの魚種と比較して名前の変化が少ないものの、出世魚として扱われる場合がある。「サゴシ」という名前は、成長過程で腰の部分が狭いことを示す「狭腰」が由来とされており、50㎝以下の個体はほぼ全国的に「サゴシ」と呼ばれている。

新年を迎える正月。縁起の良い「出世魚」を食して、今年一年の運気向上を願うのも良いかもしれない。

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	オオモトユウ編集者／ライター／フォトグラファー
スポーツウエアメーカー勤務、雑誌編集などを経てフリーライターに。好きなことを仕事に選び続けた結果、周囲からは「ラクをして生きている」と思われているのが悩み。四国、北海道については愛車で単独周遊済みなので、九州に照準を定めている。旅先での酒場巡りとノルウェー旅行の再開に思いを募らせる日々。著者のプロフィールを詳しく見る