POSTED BY アンダルシア掲載日 JUN 2ND, 2021

【論考】注視すべき今後の韓国の行方~米韓首脳会談の意義~

比較政治や国際政治経済を専門とする政治学者の筆者が、世界情勢の「今」を論考する当シリーズ。今回は、2021年5月に行われた米韓首脳会談と、米中対立のなかにおける難しい立場に置かれる韓国のふるまいを考える。

目次

米韓首脳会談で見え隠れする思惑

ワシントンD.C.で2021年5月21日に米韓首脳会談が開催され、会談後の共同声明には台湾問題の平和的解決や日米豪印によるクアッドの重要性が盛り込まれるなど、名指しはなかったものの中国をけん制するものとなった。今回の会談では韓国が如何に米国に歩み寄る姿勢を見せるかがポイントだったことから、中国へ大国間で対抗する姿勢を重視するバイデン政権には一定の手応えもあったころだろう。

一方、事実上一国二制度が壊れた香港情勢や人権抑圧が懸念されるウイグル情勢には言及がなく、韓国にとっての最大の貿易相手国である中国を必要以上に刺激したくないという思惑も見え隠れする。4月に行われた日米首脳会談の共同声明では、名指しで中国への懸念が示されたことから、米中対立のなかで韓国は日本以上に難しい立場にあるともいえる。

また、北朝鮮問題では、バイデン大統領と文大統領との間では戦略、認識の違いが改めて浮き彫りとなった。任期残りがあと1年となる文大統領は、北朝鮮問題での進展をできるだけ早く実現したい思いがあるが、金恩正氏と3回も会ったトランプ前大統領と違い、バイデン大統領はオバマ政権時代の戦略的忍耐をベースにしており、北朝鮮が核やミサイルで何かしら進展を期待できる行動を示さない限り会わないというスタンスだ。今回の会談では期待できる成果はなかったというのが文大統領の本音だろう。

本格化するクアッドの動きと中国けん制

Devi Bones / Shutterstock.com

いずれにせよ、今回の会談は今後の米韓関係の行方を展望する上で大きなトリガーとなった。最近、インド太平洋地域ではクアッドの動きが本格化している。2020年秋に東京で日米豪印の外相が参加するクアッド会議が開催されたが、バイデン政権になりその動きが加速している。

バイデン大統領が主催する形で3月に日米豪印の首脳レベル会合がオンラインで開催され、米国のブリンケン国務長官やオースティン国防長官は政権発足後初の訪問先として日本を訪れ、2プラス2の外務防衛会談で中国を強くけん制した。また、英国やフランス、ドイツやオランダも空母や艦隊をインド太平洋に派遣し、自衛隊や米軍と合同軍事訓練を実施するなど、欧州のインド太平洋への接近も顕著になっている。

中国依存が強い韓国の動きとは

Naresh777 / Shutterstock.com

このように、日米豪印に英仏など欧州を加えた多国間の安全保障協力の動きが顕著になるなか、韓国はそれとは距離を置いてきた。近年、韓国は悪化する日韓関係を問題に挙げ、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄をちらつかせるなど米国の強い不信感を買った。また、2020年10月のクアッド会議後、米国防総省では米韓安保協議会が行われたが、両国は防衛費分担金問題などを巡って激しく衝突するだけでなく、共同声明からは近年までとは異なり、「在韓米軍の現水準を維持」という表現が取り除かれ、予定されていた両国国防トップの記者会見も中止される事態となった。

一方、中国は韓国のクアッド接近阻止を懸念してか、2020年8月下旬には、中国の楊潔篪共産党政治局員が釜山で韓国の徐薫国家安保室長と会談し、新型コロナウイルスの問題が落ち着き次第、習近平国家主席の訪韓を調整することで一致した。また、4月には新しく就任したチョン・ウィヨン外相が初めての訪問先として中国を訪問して王毅外相と会談し、経済や北朝鮮問題などで協力していくことで一致した。韓国の全国経済人連合会が2020年9月に発表した統計によると、コロナ禍のなかで、輸出と投資の両面で韓国の中国への依存度が高まり、韓国の輸出全体に占める中国向け比率が25.8%(2020年1月~7月)に及び、前年同期比で1.5ポイント上昇したという。

このように、韓国は米中の対立軸の中で非常に難しい舵取りを余儀なくされている。文政権は両国と安定した関係を維持したいのが本音だが、今回の米韓首脳会談からは、「日米豪印+欧州」の枠組みから本当に孤立するという焦りや危機感が強く感じられる。中国は早速これについて反発し、韓国の行方を注視している。引き続き、韓国は難しい舵取りに直面することになりそうだ。

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ライター/

政治学者 専門分野は比較政治、国際政治経済。特に近年は米中関係や経済安全保障などの日本の国益を左右する研究に従事する。また、学術研究に留まらず、NHKや共同通信、朝日や日経、産経など大手メディアで解説なども行う。

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