POSTED BY オオモト ユウ掲載日 JUL 11TH, 2021

【釣りの今を斬る】釣りの世界をザワつかせ続ける水辺の外来種問題(vol.1)

海によって四方を隔てられ、狭い国土に多くの固有生物が息づいてきた日本。しかし、近代以降に外国との間で人や物の往来が生まれたことにより、長年独自に育まれてきた生態系が徐々に脅かされつつある。人間の手によって持ち込まれた外来生物は極東の島国で健気にも定着を果たしたが、時を経て「外来種」として忌み嫌われる事態となった。もちろん水辺も例外ではなく、釣りの世界においても根深い問題として悩みのタネとなっている。今回はそんな外来種をめぐる問題についての現状を述べることにする。

目次

そもそも外来種の定義とは?

「外来種」とは読んで字のごとく、“外”から“来”た“種”のことを指す。これだけなら誰でもわかることだろう。ただ“外”をどう定義するかによっては、その事例が異なってくる。

「外来種」という大きなジャンルを細分化していくと、「在来の外来種」も存在する。こういった事例はさほど問題視されてこなかったこともあり、一般的にはあまり知られていない。

筆者が自宅近所で偶然捕獲したカブトムシも北海道では立派な外来種。最近では全道的に広がって問題となっている

例を挙げると、小学生男子が夢中になるカブトムシが最も有名である。最近は幼虫から育てる飼育キットがホームセンターなどでも販売され、特に都市部では“捕る”よりも“育てる”対象になっている。しかし、実は北海道はその生息域に含まれておらず本来は存在しない生物である。それにも関わらず、近年はごく普通に捕獲されていると聞く。

「日本」というスケールで考えると「在来種」に分類されることもあり、一般的な感覚では駆除の対処にならぬまま定着が進んでしまっているのだ。こういった問題はニホンイタチについても発生しており、元々未生息であった離島に持ち込まれたことで貴重な小動物が食べられてしまう問題が起こっている。

これらの事例は「国内由来の外来種」と呼ばれ、地域ごとにその対応が取られている。海洋によって隔絶されて独自の生物相が形成されている離島や、気候的・地理的条件が独特な高地で問題化するケースが多いが、気候や歴史的要因が本州以南とは大きく異なる北海道や沖縄では自治体レベルで取り組みを強化している。

多くの日本人にとって最も身近な外来種がアメリカザリガニであろう。小さいうちは愛らしい姿だが・・・

多くの人がイメージする「外来種」は、件のアメリカザリガニのように外国から海を渡って持ち込まれたものであろう。このテーマにおいてメインに扱われるのはやはりこちらで、先に挙げたカブトムシの例と区別するために「国外由来の外来種」と呼ばれている。その例は無数に存在し、水辺に生息する生物だけでもブラックバスやニジマス、かつては「ミドリガメ」の名で販売されていたミシシッピアカミミガメなど枚挙にいとまがない。

いずれも人為的に持ち込まれた(環境省は「導入」という言葉で表現)結果の定着であってその生物自身に罪はないが、30〜100年の時を経て、さまざまな問題の原因として駆除の対象になってしまっている。

どうしてダメなの? 外来種が引き起こす問題の数々

外来種に対して多くの人がイメージするのは、「在来種の駆逐など生態系へのダメージを与える存在」といったものであろう。ただ、外来種のすべてがこれにあてはまるわけではない。種類によっては他に悪影響を及ぼさず、既存の生態系に溶け込んでしまう生物もいる。四つ葉のクローバーとして誰もが知るシロツメクサも外来種であるが、殊更に問題になることはないのがその好例である。

問題となるのは「侵略的」な側面が認められるかどうかが大きい。よく、生態系は「椅子取りゲーム」に例えられるが、既存の在来種と競合すれば弱者が駆逐されるのは自然の摂理である。

小型魚や甲殻類などを大量に補食し、繁殖能力も高いブラックバス。釣りのターゲットとして人気だが漁業関係者からは憎悪の視線を向けられる存在

生態系への影響については、大きく3つのパターンが考えられる。

まずは文字通りの駆逐。優位にある外来種が在来種の成魚や卵を「補食」してその数を減らしてしまう事例である。多くの人がイメージするのはこのパターンであり、水辺の外来生物が問題視されるのもこれが主たる原因となる。釣りのターゲットとして人気のブラックバスはワカサギやタナゴ、アユといった在来種を大量に補食することで知られ、環境への適応力や繁殖力にも優れる。こういったことが問題となり、「特定外来生物」としてその扱いに規制が設けられることになった。「特定外来生物」については、別の機会に詳しく言及するが、釣り業界では長らく問題視され、その対応への苦慮が続いている。

在来種と比較して圧倒的優位を保持せずとも、「競合」が生じることで既存の生態系が崩れるパターンもある。自然界に存在するエサや栄養は有限であり、競合相手が増えれば分け前は確実に減ってしまうからだ。

生物界ではしばしば起こる「交雑」も外来種の流入が問題視される原因。取って代わらずとも在来種の固有性が失われる可能性があり、その原因を排除する必要がある。

また、生態系への影響はともかくとして人間生活を脅かす側面が問題視されるケースもある。人体に有害な毒を持つヒアリやセアカゴケグモの発見がニュースになるのもそれが原因である。

全国的な問題となっているアライグマや千葉県を中心に繁殖がすすんでいるキョンなど、農業被害の原因として特定される動物も「侵略的外来種」と見なされている。細かく言えば、水生植物を大きなハサミで引き抜いてしまうアメリカザリガニはこの点でも問題視されている存在である。

元々人間が持ち込んだものでありながら、時が経って邪魔になると駆除対象とする。こうした人間の身勝手さが外来種問題の原因であることを、我々は忘れるべきではない。

そもそもキミたちはどうしてニッポンへ?

そもそもの定義として、海流や風によって運ばれた生物については外来種としては考えられない。広域を移動する渡り鳥やマグロやサバなどの海水魚、またそれらによって種子が運ばれる可能性がある植物が外来種にカテゴライズされることはない。

最大で1.5mほどまで育つレンギョは中国が原産の外来魚。元々は食材として持ち込まれたものの食卓には定着せず、そのまま野に放たれる結果となった

先にも述べたが、外来種が入り込むその端緒は意図的かどうかは別として人間活動に起因するケースがほとんどである。例を挙げると、国内の多くの河川や湖沼に生息するレンギョやソウギョは歴とした外来種。中国では古くから養殖されてきた淡水魚であり、食材としても長らく親しまれる存在であった。それに目を付けた日本人がタンパク源として明治初期に「導入」を行った経緯があり、それによって国内に定着するに至った。

このように元々は食用目的で持ち込まれて定着した外来種は多く、ニジマスやアメリカナマズ、ウシガエル、ティラピアなどがそれに該当する。いずれもマス類を除けば食材としての定着は果たされぬまま野に放たれ、次第に生息域を広げ続けていくことになった。最近では宮崎県の河川でチョウザメが多数捕獲される事例(※1)が報じられたが、やはりこのパターンによるものと推測する人が多い。

全国の淡水域で見られるミシシッピアカミミガメ。元々ペットとして飼われていたものが野生化し、繁殖を繰り返して生息域が拡大した

別のパターンでは愛玩動物として持ち込まれ、飼育しきれずに放たれた個体が野生化→繁殖という経緯をたどった例もある。かつて縁日で販売されていたミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)がその代表で、現在では全国の河川や湖沼でその姿が見られるようになってしまった。同じような例としてはグッピーやカミツキガメ、アリゲーターガーなどが知られており、気候が温暖化しているせいもあって報告例が増えている。(※2、3)

※1 https://www.asahi.com/articles/ASN9X3TRCN9TTNAB001.html
※2 https://www.at-s.com/news/article/shizuoka/909218.html
※3 https://www.asahi.com/articles/ASK8S619RK8

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オオモトユウ
編集者/ライター/フォトグラファー

スポーツウエアメーカー勤務、雑誌編集などを経てフリーライターに。好きなことを仕事に選び続けた結果、周囲からは「ラクをして生きている」と思われているのが悩み。四国、北海道については愛車で単独周遊済みなので、九州に照準を定めている。旅先での酒場巡りとノルウェー旅行の再開に思いを募らせる日々。

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