POSTED BY オオモト ユウ掲載日 JUN 24TH, 2021

【釣りの今を斬る】生態系にも影響が!?見えにくい水中のゴミ問題(Vol.1)

古くから話題に上り続けているにもかかわらず、今なお根本的な解決に至っていない「釣りによるゴミ問題」。地上から見えるものはもちろんのこと、水中に浮遊したり堆積した廃棄物も事態を深刻にしている要因である。もちろん、そのすべてが釣り人に起因するわけではないが、「釣り」が水辺環境を害するレジャーとして白眼視されるには十分すぎる材料である。釣り人が魚との真剣勝負に興じるその裏で、実は環境に負荷をかけている一面があることを知っておく必要があるだろう。

目次

水中の環境悪化を招く釣り由来の廃棄物【釣り糸】

現在、釣り糸として主に使われているのは、ナイロンやフロロカーボン、ポリエチレンといった化学繊維が主流。これらが開発されるまでは、麻や絹、動物の毛といった天然由来の素材が使用されていたようである。

現在の釣り糸として主流となっているのはナイロンなどの化学繊維。細くて強い糸の登場により、釣りの世界は大きく広がった

化学繊維は工業製品のため太さや長さを自由に作ることができ、強度や価格面でも非常に優秀。当初は釣り糸として開発されたわけではなかったものの、第二次世界大戦後の1950年以降に広く釣りの世界に普及した。この技術革新はそれまでは不可能だった大物への対応はもちろんのこと、より深く、より遠いポイントの攻略を可能にし、釣りの世界は大きく広がることとなった。

その反面、化学製品であるため天然素材のような「分解」が起こりにくい。使用を繰り返すうちに劣化して切断されることはあるものの、それ自体はなくならず水中や水辺でいつまでも存在し続けてしまう。水中を漂い続けた釣り糸は魚や生物に絡まったり、地上では鳥などが被害を受けることもしばしば。仮に切断や摩耗によって小さくなっても、「マイクロプラスチック」となって海中を漂うこととなり、生物の健康を害する恐れがある。

水中に残った釣り糸は自然には分解されずにいつまでも残ってしまう。これが生物やダイバーに絡まったりして各地で問題となっている 提供:公益財団法人 日本釣振興会

そういった理由から漁業やダイビングの関係者からは厳しい視線が注がれることもしばしばで、実際に2020年には釣りのポイントとしても人気があった静岡県沼津市の大瀬崎一帯で釣りが禁止される事態となった。陸上の放置ゴミや新型コロナウイルス感染症の拡大防止という付随要因はあったものの、多彩な魚が狙える場所だっただけに関係者の衝撃は大きかった。

この事例はニュースとして大きく取り上げられ(※1)、実際に海中に残された釣り糸や仕掛けなどをダイバーが清掃する写真や動画が配信されている。

もちろん、釣り業界も無策でいたわけではない。水中環境を害している事実を重く受け止め、バス釣りブームに沸いた1990年代半ばには「生分解性釣り糸」が発売された。これは表面にバクテリアなどが付着すると、その働きによって水中に残ったラインがやがて分解されるという画期的なものであった。

しかし、一般的なナイロン糸よりも強度面で劣る点が敬遠されてしまい、一般の釣り人への普及は叶わなかった。現在は捨て糸(岩礁域を狙うときにオモリを結ぶのに使う糸)用として継続販売されている物を除けば、ほぼ同様の商品の追従がない状態が続いている。

水中の環境悪化を招く釣り由来の廃棄物【オモリ】

釣りで使われる「オモリ」は、そのほとんどが鉛を材料としている.鉛は紀元前から人類に利用されてきた身近な金属で、古代ローマ時代にはすでに水道管の素材として、また戦前までは絵の具や化粧品などに使われる顔料としても使われるなどその利用の歴史は古い。現在でも蓄電池には欠かせない金属素材であり、日本国内では年間25万tほどが生産・輸入によって供給されている。

特徴として軟らかくて融点が低い(327.5℃。鉄は1538℃)ため加工がしやすく、それでいて高比重(同質量における重さの比較。鉛11.330に対し鉄は7.870。ちなみに金は19.300)。この特徴からエサを付けた仕掛けを水中に沈める「オモリ」として長らく重宝されてきた。

ただ短所もある。鉛は生物にとっては有害であり、人間も一度に多量を摂取したり、微量でも摂取が長期間に渡れば中毒症状を起こすことが知られている。皮膚からの直接吸収はほとんどないため触る程度は問題ないが、一定量を誤飲すると健康被害が発生する。これは野生動物も同じで、主に鳥類で鉛中毒の被害が確認されている。釣りのオモリよりも狩猟に使われる散弾による被害が中心ではあるが、有害であることには変わりない。それを多くの釣り人が水中へと投げ込み、ときには糸が切れて水中に残してしまっている現状がある。

これまで「水中で速やかに溶け出すものではない」とされてきた鉛だが、近年の研究・分析によってその説にも疑問が投げかけられつつある。鉛製の水道管を通過した水から鉛イオンが検出された事例もあり、水中に残されたオモリから有害な成分が溶出される可能性は否定できない。溶出せずとも岩礁などとの摩擦によって細粒となり、魚介類の体内に取り込まれる可能性は十分。長い目で見れば、それらの魚介類を食べる人間にとっても無関係ではない。こういった事例を挙げて鉛製オモリの使用に警鐘を鳴らす論文(※2)が発表されたり、一部の遊漁船では鉛製オモリの使用を禁止する(※3)動きも見られる。

従来の鉛製オモリ(左)に対し、オレンジのほうが鉄製のオモリ(右)。同じ重さだが、比重が異なるぶん大きさに違いが出る

こうした危機感の高まりを受け、釣具メーカーでも鉛を使わないオモリの開発が進んでいる。具体的には水中で腐食して水生植物などの養分として取り込まれる鉄や、鉛よりも高比重なタングステン素材のオモリはすでに市場で定着しつつあり、一定の評価を獲得している。ただ、いずれも鉛製オモリよりも高価な点は否めず、鉛製からの転換はスムーズとは言えないのが現状である。普及が進まないことには市場への流通量も増えず、釣り人の意識向上が今後の課題と言えよう。

水中の環境悪化を招く釣り由来の廃棄物【軟質プラスチックルアー】

小魚や甲殻類を主に補食している肉食魚を狙う際に使うルアー(疑似餌のこと。天然由来のエサではなく人工の偽物)にはいくつか種類があり、そのなかでグミのような触感のものは広く「ワーム」と呼ばれている。木や硬質プラスチック、金属を使用したものとは違い、水中で艶かしい動きをするため魚の反応がよいのが特徴。形状や色の制約も少なく、それでいて安価なため広く普及している。

水中清掃で集められたワームはいずれも白化しているものの、形はほぼそのまま 提供:公益財団法人 日本釣振興会

軟質のプラスチックや樹脂をその材料としたこのルアーも、水中環境に負荷をかけている要因のひとつである。釣り糸と同様に化学合成された素材であり、自然に分解されることはほとんどない。ゆえに水中に残されればそのまま堆積する結果となる。「ブラックバスの人気ポイントには水中で染料が抜けて白化したワームが点在している」という証言は、漁業関係者や水中清掃に参加したダイバーから多く耳にする。

また、魚や他の水生生物が飲み込むと消化や排泄へ影響が出て、死に直結することも多い。そのため、神奈川県の芦ノ湖や山梨県の西湖、河口湖のように使用を禁止している場所もある。

こういった諸要因から愛好家の間でも問題視する動きが起こり、2000年代初頭には一部のメーカーで生分解性の商品が開発された。同様の危機意識を持った釣り人からは一定の支持を集めたようだが、こちらも一般層への普及がスムーズにならず当時は定着には至らなかった。そのもどかしさは、当時の悪戦苦闘を綴ったルアーメーカーのWEB記事(※4)からも読み取ることができる。

水中で自然に分解される生分解性のワームは種類は少ないものの販売が継続されており、釣果も遜色ない

現在に至っても生分解性のワームは多数派になってはいないが、商品は継続的に販売されている。実際のフィールドで行ったテストの結果も公表(※5)され、誰でも確認することができる。購入後の保管については若干の手間がかかるものの釣果は他の商品と遜色なく、一段と高まりつつある環境保全指向もあって存在感を増している。

また、業界団体が「環境協力シール」をメーカーに販売し、それによって集められた資金で清掃事業を行う取り組みも継続されていることを追記しておく。

水中の環境悪化を招く釣り由来の廃棄物【製品パッケージ】

釣り場で最も多く見かけるゴミが、仕掛けやルアー、エサなどが入れられていたパッケージである。誰が見ても釣り人が持ち込んだものであり、もはや言い逃れはできない。これらの大半はプラスチックやビニール素材であり、やはり自然に分解されることはない。直接的には釣りに使う物でもないことから、生分解性の素材が使用されるなどの配慮は行き届かないのが現状である。

エサが入っていた袋などのパッケージも釣り場に多いゴミのひとつ。さすがにこれは言い逃れができない「釣りゴミ」である 提供:公益財団法人 日本釣振興会

問題はそれだけに止まらない。風や紫外線による劣化で小さく破砕されればマイクロプラスチック問題の遠因となり、そのままでもウミガメなどがエサ(クラゲなど)と間違えて誤飲する可能性に直結する。

こればかりは個々人の心がけと、それに準じた対策に期待するよりない。筆者も一釣り人として、製品パッケージは自宅であらかじめ処分して持ち込むことを心がけている。エサなどのように開封後の処理に悩むものはパッケージごと持ち込むが、風で飛ばされたりしないよう必ずフタが付いたバッグの中に入れている。いずれも些細なことではあるが、こればかりは個人の心がけ次第になってしまう。釣りに限らず、水辺のレジャーを長く楽しむためには、一人ひとりの行動が最も重要であることを覚えておいてほしい。

※1 https://www.asahi.com/articles/ASNBZ6WRJNBYUTPB003.html?iref=pc_photo_gallery_bottom
※2 三輪宏『鉛製オモリの現状と今後の課題』http://id.nii.ac.jp/1342/00000475/
※3 http://hayate2011.sakura.ne.jp/custom4.html
※4 https://keitech.co.jp/publics/index/235
※5 https://ecogear.jp/environment/

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オオモトユウ
編集者/ライター/フォトグラファー

スポーツウエアメーカー勤務、雑誌編集などを経てフリーライターに。好きなことを仕事に選び続けた結果、周囲からは「ラクをして生きている」と思われているのが悩み。四国、北海道については愛車で単独周遊済みなので、九州に照準を定めている。旅先での酒場巡りとノルウェー旅行の再開に思いを募らせる日々。

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