POSTED BY アンダルシア掲載日 NOV 10TH, 2021

【論考】米中対立から加熱する中小国の中国離れ~一帯一路の行く末とは~

比較政治や国際政治経済を専門とする政治学者の筆者が、世界情勢の「今」を論考する当シリーズ。今回は、これまで支持に回っていた中小国の中国離れの可能性と、失速を見せている一帯一路の実情を考えてみる。※写真はすべてイメージです

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52カ国が中国を支持するが・・・

2020年6月、スイスで開催された第44回国連人権理事会では香港国家安全維持法の審議が行われ、欧米や日本など27カ国が反対に回った一方、52カ国がそれを支持する立場を取った。

それらは、エジプト、モロッコ、ソマリア、南スーダン、ザンビア、ジンバブエ、トーゴなどのアフリカ諸国、イラン、イラク、クウェート、サウジアラビア、バーレーンなどの中東諸国、カンボジア、ミャンマー、ラオス、パキスタン、ネパール、スリランカなどのアジア諸国、キューバ、ニカラグア、ドミニカ、ベネズエラなどの中南米諸国であったが、香港国家安全維持法に対して反対国より賛成国が多かった事実に驚いた人も少なくなかった。

しかし、それはそれだけ中国の影響力が各地域に浸透していることを意味する。賛成に回った国々の多くは習政権が進める巨大経済圏構想「一帯一路」の被援助国であり、近年も多額の支援を受けている。要は、中国に対して歯向かうような態度を取れば援助を停止される恐れがあり、たとえ本音では良くないと思っていても中国からの政治的圧力には屈するしかないという現実があるのだ。

これまでに多額に債務を背負うことになり、たとえば、パキスタンは南部グアダル港の使用権を中国に43年、スリランカは南部ハンバントラ港の使用権を中国に99年それぞれ渡した。

中小国の中国離れが進むか

だが、最近はその中小国からも中国離れが加速化している。たとえば、外相にあたる台湾の呉釗燮・外交部長は2021年10月下旬、リトアニア、チェコ、スロバキアの3カ国を訪問し、同じ3カ国と政治経済的な関係を強化していくことで一致した。この訪問には台湾の政府機関幹部や民間企業トップら約65人あまりが同行したとみられ、台湾の中国を強くけん制する動きとなった。リトアニア、チェコ、スロバキアは2021年、台湾に新型コロナウイルスワクチンを無償提供することを決定するなど、中東欧諸国の中国離れも加速化している。

8th.creator / Shutterstock.com

また、リトアニア国防省は2021年9月、国内で販売される中国製スマートフォンに検閲機構が内蔵されているとして、市民に対して購入しない、もしくは既に使っていればすぐに処分するよう呼び掛けた。さらに、2021年6月、ハンガリーの首都ブタペストで、同市で開校が予定されている中国の名門復旦大学のキャンパス建設に抗議するため数千人規模のデモが行われるなど、市民の中国への警戒心も高まっている。

中東欧諸国の一部は、中国が進める一帯一路の恩恵を受けられることを期待していたが、思うような支援や経済成長が得られないなど不満を高めるだけでなく、新型コロナウイルスの真相解明における中国の姿勢やウイグル人権問題などによってさらに不信感を強めており、それが中東欧諸国の中国離れ、台湾接近を誘発している。

「一帯一路」が失速する見解も

米国のウィリアム・アンド・メアリー大学のエイドデータ研究所は2021年9月、一帯一路による経済プロジェクト全体の35%で環境汚染や汚職、労働違反などの問題が発生し、カザフスタンやボリビア、マレーシアなどで十億ドル、百億ドルレベルのプロジェクトが中止になるなど中国への反発が高まり、今後一帯一路は失速すると結論付けた。同研究所の見解が今後さらに正当性を持つようになれば、上述した52カ国の中からも中国離れが進む可能性が十分にある。

Mirko Kuzmanovic / Shutterstock.com

2022年2月の北京冬季五輪をホストする習政権としては、こういった中国離れに歯止めを掛けたいところだ。だが、米国や欧州が相次いで北京五輪の開会式や閉会式の際、各国に選手団以外の首脳や政府関係者の参加を見合わせる外交的なボイコットを行うよう呼び掛けたように、中国を観る各国の態度や姿勢は大きく変化してきている。習政権は欧米やインドなど主要国との対立だけでなく、中小国との亀裂という新たな問題に直面している。

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政治学者 専門分野は比較政治、国際政治経済。特に近年は米中関係や経済安全保障などの日本の国益を左右する研究に従事する。また、学術研究に留まらず、NHKや共同通信、朝日や日経、産経など大手メディアで解説なども行う。

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