POSTED BY オオモト ユウ掲載日 JAN 8TH, 2022

【金目鯛は鯛じゃない!?】 日本人の「鯛」好きを裏付ける魚名の雑学

名前の響きが「めでたい」に通じ、桜の花を想起させる鮮やかなピンク色の魚体も相まって、古くから日本人に愛好されてきた鯛(マダイ)。その影響は絶大で、日本近海に生息する魚には「タイ」の名が付けられているケースが非常に多い。ただ、鯛の仲間に分類される種はごく一部に限られており、それ以外は日本人の「鯛」信仰が高じて名付けられた種がほとんどとされる。ということで今回は、新年や慶事に目にすることも多い鯛について、その雑学を紹介していくことにしよう。

目次

マダイの仲間はたったコレだけ!? 釣り人に身近な正真正銘の「タイ」とは?

先にも述べたように、日本に生息・流通する魚には「タイ」と名の付く魚種が数えきれないほど存在する。魚に詳しくなくとも、「キンメダイ」や「イシダイ」、「アマダイ」といった魚名は耳にしたことがあるだろう。しかし、一般的に「タイ」と呼ばれるマダイの仲間に分類される種は相当に限られる。ここでは、釣り人において身近な種をいくつか紹介していきたい。

クロダイ

関西では「チヌ」と呼ばれる釣りの人気ターゲットで、大きいものは60cmほどまで成長する。外洋を好むマダイと比較して生息域が内湾や汽水域に偏る傾向があり、河川内にも入り込む。体形はマダイよりも尾が短めで、鋼色と黒の薄い縞模様が現れる個体も。

生息場所によっては身や皮目に臭みが残るものの、水質が良い外洋で獲れた個体はマダイと同様に癖のない白身が楽しめる。

ヘダイ

クロダイに似た白銀色の魚体や、やや丸みを帯びた鼻先に特徴がある小型のタイ。関東以南の温暖な海に生息し、大きいものは50cmほどまで育つ。クロダイよりも個体数は少ないものの、引きが強烈で、しばしば釣り人を驚かせる。また、食味がよいことでも知られており、塩焼きなどで美味とされる。

キチヌ(キビレ)

名前に「タイ」とは付いていないものの、正真正銘のタイ科の魚。一見するとほぼクロダイながら、尾ビレや尻ビレなどに黄色部が見られるため判別できる。クロダイよりもやや温暖で塩分濃度の低い海を好む傾向があり、河口部などでもよく釣れる。近年は生息域が北上しており、東京湾でも目にする機会が増えている。

ここで挙げた3種のほかに、日本近海に生息するタイ科の魚種は以下の通り。

  • チダイ(ハナダイ)
  • キダイ(レンコダイ)
  • アカレンコ
  • キビレアカレンコ
  • タイワンダイ
  • ホシレンコ
  • ヒレコダイ
  • ミナミクロダイ
  • ナンヨウチヌ
  • オキナワチヌ

チダイやキダイは船釣りでよく釣れる小型種で、慶事に振る舞われる鯛の姿焼きによく使われる。ミナミクロダイやナンヨウチヌ、オキナワチヌは沖縄地方にのみ生息する種であり、九州以北では出会う機会はほぼない。

名前に「タイ」と付いていても実は別種な「あやかりダイ」たち

名前に「タイ」と付いていても、タイ科の魚はほんのひと握り。前述した10数種以外はタイ科とは別の系統であり、俗に「あやかりダイ」と称される魚に該当する。

「あやかりダイ」とは、本来タイ科ではないのに名前に「タイ」と名付けられた魚のことで、200種ほど存在。日本では古来より「マダイ=価値のある魚」という文化が根付いているため、このように名付けられたことは想像に難くない。そのせいで、「あやかりダイはタイ科ではない偽者」などとされた時期もあったが、養殖マダイの流通や種苗放流が盛んになった昨今では、むしろアマダイやキンメダイのほうが高値で取引される。そもそも、魚自身にあやかろうという意思があるわけではなく、日本人の心奥に根付いた「鯛」信仰の証と見るのが適当であろう。

ここではそんな「あやかりダイ」の一部を紹介していこう。

イシダイ

「磯の王者」とも称される磯釣りの人気魚。イシガキダイと並んで「イシダイ科」に分類される。手の平サイズの小型は堤防周りでよく釣れるが、型物は水深と潮通しに恵まれた岩礁帯に潜んでいる。最大で70cm近くまで育ち、強烈なアゴとサザエの殻をも噛み砕く強靭な歯を持ち、甲殻類や貝類を食べ漁る。きれいな白身は刺身や塩焼きで美味。アラを使って潮汁を楽しむのもおすすめだ。

メイチダイ

房総半島以南の温暖な海に生息し、最大で40cmほどまで育つ。頭部に黒っぽい筋模様があり、それが黒目にも連なって見えるため「目一」と名付けられたとされている。きれいな白身は旨味が豊富で美味。刺身や焼物、煮物から洋風の味付けでもおいしくいただける。

姿形はタイによく似ているもののフエフキダイ科に分類され、マダイの仲間としては扱われない。

スズメダイ

磯や堤防周りなど、流れが緩い場所に大群で生息する小型磯魚の一種。最大でも15〜20cmと小さいため釣れても持ち帰る人は少ないものの、捌いてみるときれいな白身が出現。味も非常によく、九州では干物にしたものが「あぶってかも」という名前で珍重されている。

東北地方にも生息が確認されているが、同じスズメダイ科に分類される種には色鮮やかな熱帯魚系も多い。もちろんタイ科とは近しい関係になく、分類状はベラなどと同系統とされている。

正式名称には含まれずとも、流通過程で「タイ」と付けられた魚たち

ティラピア→「いずみ鯛」「ちか鯛」

アフリカや中近東に生息する食用魚で、戦後の食糧難対策として移入された歴史がある。低水温には弱いものの、河口部や高水温下には対応可能。繁殖力も高いため、脱走した個体などが九州や沖縄で繁殖して問題となっている。

本来、日本には生息しない種でありもちろんタイの仲間ではない。しかしながら、身質がマダイに似ているとして養殖されたため、かつては「いずみ鯛」「ちか鯛」として販売されていた。前述のように、マダイの養殖や種苗放流が盛んになった影響で市場や一般家庭へ広く普及・定着はしなかったが、そのせいで管理が放棄されて自然繁殖。現在では注意が必要な外来種としてリストアップされている。

アカマンボウ→「まん鯛」

赤色が鮮やかな大きなヒレと、最大で2mほどまで育つ巨体が特徴。熱帯や温帯に広く生息し、ハワイや沖縄では食用として定着している。

大型種ゆえ船上で解体されたり、切り身の状態で出荷されたりすることが多い。目にする機会は少ないものの、海辺の鮮魚店では切り身になって店頭に並ぶことも。身は鯛よりもマグロやカジキに似ており焼物や煮付けで美味。食品に関する表記が現在ほど厳格化される以前は、マグロやカジキの代用魚として扱われていたこともあったようだ。

市場では「まん鯛(だい)」と呼ばれ、現在は「アカマンボウ」という和名と併記される形で流通している。もちろんタイ科の魚ではないが、かといってマンボウの仲間でもないという実にややこしい境遇。体形が似ていることから「マンボウ」と名付けられただけであり、実際は深海魚の「リュウグウノツカイ」のほうが近しいとされている。

古来より日本人に愛されてきた鯛。こうした背景や豆知識を知っておくことで、また異なった楽しみ方が生まれるだろう。何気ない会話のなかでサラッと披露できると、魚好きとしての深みが増すかもしれない。

オオモトユウ
編集者/ライター/フォトグラファー

スポーツウエアメーカー勤務、雑誌編集などを経てフリーライターに。好きなことを仕事に選び続けた結果、周囲からは「ラクをして生きている」と思われているのが悩み。四国、北海道については愛車で単独周遊済みなので、九州に照準を定めている。旅先での酒場巡りとノルウェー旅行の再開に思いを募らせる日々。

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