POSTED BY オオモト ユウ掲載日 AUG 8TH, 2021

【釣りの今を斬る】海水温上昇がもたらす日本近海の変化(vol.1)

国土の数倍ものEEZ(排他的経済水域)を保有し、世界有数の海洋国に数えられる日本。それゆえ、ひとたび海洋環境が変化すれば、漁業や食文化、気象に至るまで多方面に甚大な影響が及ぶ。すでにさまざまな事象でその変化が顕著になっており、長い歴史を重ねて築き上げた日本人の日常生活が脅かされる事態にもなっている。その最大の元凶とされるのが「海水温の上昇」。簡単に言えば、日本の周りの海が温かくなっているのである。日本近海に起こっている変化を、多方面から検証してみたい。

目次

今後も上昇は不可避!? 日本の海に起きている水温変化

30年以上も前から世界中で警鐘が鳴らされながらも、根本的な解決策が見つかっていない地球温暖化問題。年を追うごとに過酷さを増す夏の暑さや冬場の積雪量の減少に、その影響を実感する人は多いだろう。

日本近海の海域平均海面水温(年平均)の上昇率(℃/100年)
出典:気象庁(https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/data/shindan/a_1/japan_warm/japan_warm.html)に掲載の表を加工して作成

同じく地球規模の問題として注目を集めているのが「海水温の上昇」である。気象庁の発表(※1)によると、日本近海の海水温は2020年までの100年間で1.16℃上昇している。これは日本全国の年平均気温の上昇(1.26℃)とほぼ同程度であり、この100年間で海も陸も温かくなっていることが裏付けられている。

同発表では、3カ月ごとに区切ったデータも示されており、季節ごとの上昇度も明らかになっている。それを見る限り、海水温の上昇は夏場よりも秋〜冬において顕著な傾向にあり、「冬場に海水温が下がらない」ことがわかる。冬季の水温低下は暖流に乗って北上する海洋生物にとって大きな障害だったが、それが機能しにくくなった結果、漁獲量や漁獲内容に変化を及ぼしたと推察できる。

日本近海の全海域平均海面水温(年平均)の平年差の推移
出典:気象庁(https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/data/shindan/a_1/japan_warm/japan_warm.html)

ちなみに、世界全体の海洋における水温上昇の平均は0.56℃というデータが出ており、日本が属する北太平洋もその上昇の度合いは0.55℃に止まっている。これらの数字と比較すると、日本近海における水温上昇の深刻さがおわかりいただけるだろう。

食卓の顔ぶれが変わるかも!? 漁業に見る海水温上昇の影響

海水温上昇によってもっとも顕著な影響を受けるのが漁業である。海水魚はそれぞれに適水温があり、自分好みの環境を求めて広く移動する。当然海水温が上昇すれば、その場所に新たに生息できる種と、その場所から撤退する種が生まれ、それが漁獲に反映されることとなる。

秋の旬魚として日本の食卓を彩ってきたサンマ。しかし、海水温上昇の影響で漁獲が減り、価格高騰が続いている

近年、この話題で必ず取り上げられるのがサンマであろう。夏場に漁が解禁され、秋には頻繁に食卓に上って広く大衆に愛された魚だが、近年は漁獲量の低下が著しく、それに伴って値段も高騰の一途を辿っている。

「全国さんま棒受網漁業協同組合」が公表している資料(※2)によると、平成元年における全国のサンマ漁獲量の総計は24万6千t余り。それが約30年後の令和2年には3万t弱まで減少している。2021年も7月から漁が解禁されているものの場所によっては漁獲ゼロという事態(※3、4、5)もあったようで、関係者は危機感を強めている。

他国の漁獲が増えたことも要因に挙げる向きもあるが、日本近海の海水温上昇に起因するとの指摘が最も有力。水温の上昇によってサンマの回遊ルートが日本沿岸から離れてしまい、以前よりも漁場が遠くなっている。それとは対称的に、南から北上してくるイワシやサバの漁獲は増加傾向。沿岸の勢力図が変わりつつあることがうかがえる。

閉鎖水域に生息する淡水魚とは異なり、海水魚は適水温を求めて広く泳ぎ回る。海水温の変動は、特定の海域に注目すれば生息する種の変化を、特定の種に注目すれば生息域の変化をもたらす要因となる。

釣りの現場で実感する海水温上昇がもたらした変化

筆者が仕事として釣りの現場に立ち会うようになって20年弱が経つが、その間にもさまざまな変化を実感している。「栄枯盛衰」というと大げさだが、釣れる魚の顔ぶれや釣れる頻度に海水温上昇の影響が見て取れるケースがある。関東周辺に限った話になってしまうが、印象が強い事例をいくつか挙げてみたい。

【アイゴの定着】

磯や堤防でよく釣れるアイゴ。背ビレなどに毒を持ち、刺されると手の痺れなどが起こる

西日本では「バリ」と呼ばれ、ヒレに毒を持つ危険魚ながら強い引きが楽しめ、一部では食材としても愛されてきた磯魚。関東では水温の高い時期に成魚が釣れることはあったが、水温が低下する冬場になると姿を消す印象が強かった。

10年ほど前に静岡県沼津市の漁港で見た光景。魚群の大半はアイゴの幼魚で、当時から「末恐ろしい・・・」と急増を危惧していた

しかし、10年ほど前から伊豆半島などで幼魚の大量発生が見られ、以降その勢力が急拡大。東京湾にも姿を見せるようになり、伊豆半島や房総半島では冬場でも釣れる魚になりつつある。海藻類を主食にするため、その食害の面からも拡大や増殖が問題視されており、一部では漁業関係者による駆除も行われている。現状では房総半島以北での定着は見られていないものの、茨城県の大洗で釣れたこともあり、さらなる拡大が懸念されている。

【東京湾におけるキチヌの勢力拡大】

尾ビレや腹ビレ、臀ビレが黄色いことから釣り人からは“キビレ”と呼ばれる「キチヌ」。外見がそっくりのクロダイと同様、内湾や汽水域の浅海を好む鯛の仲間で、クロダイよりも水温が高い海域に生息する。関東でも生息は確認されていたものの、黒潮の影響を強く受ける駿河湾や相模湾、房総半島に限られていた。

多摩川河口で釣れた40㎝ほどのキビレ。以前と比較して明らかに数が増えており、江戸川や隅田川の河口部でも狙って釣れるほど勢力を拡大している

しかしここ数年、東京湾内で顕著な勢力拡大が見られており、多摩川や江戸川、隅田川といった都市河川の河口部で狙って釣れるほどまで増えている。当該水域の水質向上にも原因はありそうだが、水温上昇の影響と考える人も多い。

【アイナメの減少】

北海道や東北など、主に寒流の影響が強い海域に生息するアイナメ。大きいものでは50cmほどまで育ち、きれいな白身は刺身や煮付けで美味。釣魚として広く愛されている人気ターゲットである。

ハリ掛かりすると首を振りながら抵抗し、「ゴクゴクッ」という独特の感触で楽しませてくれるアイナメ。東京湾内ではその釣果がめっきり減っている

関東周辺では東京湾内や銚子周辺、茨城、福島の沿岸でよく釣れていたが、やはりここ10年ほどでその印象は薄くなりつつある。特に東京湾内や銚子周辺での釣果は目に見えて減っている印象。茨城や福島でも「以前より釣れなくなった」という話が多く聞かれる。海水温の上昇によって生息域が北に移りつつある可能性は高い。

※1 https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/data/shindan/a_1/japan_warm/japan_warm.html
※2 http://www.samma.jp/tokei/catch_yoy.html
※3 https://news.yahoo.co.jp/articles/fa6250b7c6dcb6b88cbdd75ce8eac6d5437345ff
※4 https://news.yahoo.co.jp/articles/ab786522db1af085590cf59c4c22d0d261e4a462
※5 https://news.yahoo.co.jp/articles/8b54bc0b231cb7b6a5445b94da71164caae004a2

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オオモトユウ
編集者/ライター/フォトグラファー

スポーツウエアメーカー勤務、雑誌編集などを経てフリーライターに。好きなことを仕事に選び続けた結果、周囲からは「ラクをして生きている」と思われているのが悩み。四国、北海道については愛車で単独周遊済みなので、九州に照準を定めている。旅先での酒場巡りとノルウェー旅行の再開に思いを募らせる日々。

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