POSTED BY オオモト ユウ掲載日 AUG 19TH, 2021

【釣りの今を斬る】海水温上昇がもたらす日本近海の変化(vol.3)

沿岸の浅海に豊かに茂る海藻帯は「海の森」とも呼ばれ、さまざまな生産活動が行われる場として海洋環境において重要な役割を担っている。そんな海藻帯の減少が話題に上るようになって20年以上が経過し、その原因や対策が次第に判明してきている。海水温の上昇については根本的な解決策が見出されていないものの、「食害生物の存在を知る」という点については成果が上がりつつある。実は釣り人と縁が深い「食害生物」について、その顔ぶれを紹介していこう。

目次

「磯焼け」を引き起こす「食害生物」の顔ぶれ 

食害生物とは、海藻をエサとして繁殖している生物のことで、魚類だけでなく貝類やウニなどの「棘皮動物」なども含まれる。これらの生物は磯焼けが問題化する前から生息・繁殖していたが、海水温上昇を引き金のひとつとして勢力や生息域の拡大が起こっている。

その結果、ただでさえ海水温上昇や水質変化によって減少が見られる貴重な海藻が食い尽くされ、「砂漠化」とも評される死の海が広がることとなった。特に近年の勢力拡大が顕著で、磯焼けの一因と認定されている食害生物を見ていきたい。

【ブダイ】

いかにも南方系な派手な模様が特徴のブダイ。ヒジキやノリなど海藻類のほかカニなども食べる雑食魚

“タイ”と名付けられているものの、分類状はベラの仲間。浅い磯場や岩礁帯に住む磯魚で、黒潮の影響を受ける太平洋沿岸の外洋に生息する。北限は房総半島。大きいものは50cmほどまで育つ。伊豆半島や紀伊半島では食用魚として古くからなじみがあるものの、全国的な流通は見られない。

主に海藻を食べる冬が旬とされ、刺身や煮付けなどでおいしい。ただ、カニなども食べる雑食性ゆえ磯臭い個体も多く、毒々しい外見も相まって消費は産地周辺に限定される。磯に着いたヒジキやノリを食べることから、これらをエサに使って狙う釣り方も盛ん。昭和の時代には海藻の代用品として、茹でたホウレンソウや大根の葉もエサに使われた。

【イスズミ】

メジナによく似た外見ゆえ、しばしば混同されるイスズミ。伊豆諸島では食材としても人気だが・・・

房総半島以南の温暖な海が主な生息域で、一部は能登半島や東北地方沿岸にも見られる磯魚。釣りの人気ターゲットであるメジナと外見が似ていることから、しばしば混同される。伊豆諸島では「ササヨ」と呼ばれ、昔から島民のタンパク源として広く食されてきたが、雑食性が強いせいか迅速かつ適切な下処理を怠ると身に臭みが移りやすい。

そのせいか産地以外ではあまり消費対象になっておらず、釣り人の間でも「磯臭い」との評価が定着。いわゆる「外道」として扱われるため数が減らず、しかも海水温上昇に伴って勢力は拡大傾向。これまで冬場は姿を見る機会が少なかった関東の海でも、近年見られるようになっている

ブダイと同様にノリや茹でた青菜を使った釣法が紀伊半島や伊豆諸島で行われた歴史があることからもわかるように、海藻類を盛んに補食する。大きいものは60cmを超えるほどまで育ち、しばしば釣り人の仕掛けを引きちぎっていく。

【ニザダイ】

おちょぼ口と尾ビレの根元にある3本の突起が特徴のニザダイ。引きが強く、釣魚としては魅力的ながら人気はイマイチ

尾ビレの付け根部分に3本の突起が見られることから、釣り人からは「サンノジ(三の字)」と呼ばれる磯魚。やはりメジナ狙いのハリによく掛かり、本命に比肩するほどの強烈な引きで竿を絞り込む。大きいものは50cm程まで成長。房総半島以南の温暖な海に生息し、近年は水温が低下する冬場でも顔を見る機会が増えている。雑食性で海藻も盛んに食べることから、磯焼けの原因と見る向きも多い。

さばいてみるときれいな白身で一見するとおいしそうだが、磯臭い個体が多く食材としての評価は低い。摂餌した海藻や甲殻類が消化器内で発酵していることがその原因で、釣れたその場で内臓の処理と血抜きを行うことがおいしく食べるコツとされる。

【アイゴ】

食害生物の代表的存在として各地で問題視されているアイゴ。各ヒレに毒のある棘があることも数が減らない要因

瀬ビレや腹ビレなどに毒のある棘を持ち、もっとも身近な毒魚として釣り人には知られた存在。流れが緩やかな場所にある磯場や堤防周りに生息し、大きいものは45cmほどまで育つ。主な生息域は房総半島以南だが、東北地方でも目撃例がある。甲殻類のほか海藻も好んで摂餌する傾向にあり、各地で食害生物として認定されている。

イスズミやニザダイと同様に身に臭みがあり、釣り上げたら即座の下処理が求められる。産地周辺に限定されるものの古くから食材として需要があり、各地でさまざまな料理法で消費されている。ただ、その量は勢力拡大を食い止めるほどではなく、毒を持っているため捕食者がいないことや、食材としての需要が少ないこともあって、各地で食害が拡大している。

【ガンガゼ】

食用価値が低いうえに天敵も少ないガンガゼ。海藻を根こそぎ食べてしまう存在として各地で対策が本格化している

他のウニと比較して長く鋭い棘を持ち、手に刺さると激しい痛みを起こす有毒種。食用種と比較して味で劣り、身入りも悪いことから食材需要はほとんどない。日中は物陰に潜み、夜間に活動が盛んになる。

日本近海では房総半島までの温暖な海域に生息するが、海水温上昇の影響か勢力拡大&高活性化が顕著で、主食となる海藻減少の一因とされている。天敵が少ないのも増加の一因。硬い歯と強靭な顎を持つイシダイやモンガラカワハギの仲間にしか捕食されず、近年は浅い磯場や堤防周りで目にする機会が増えている。

切っても切れない間柄!?食害生物と釣りとの関係 

これらの食害生物は実は釣り人との縁が深い。前項で挙げた種はアイゴやガンガゼのようにそもそも捕食者がほとんどいなかったり、食材として利用価値が見出されていない傾向にある。売れない・値が付かない生物は漁獲対象とならず、安定供給がされないことから新たな需要も起こらない。

このように、そもそも減少する要因がなかった存在となっていたところに海水温上昇と海洋環境の変化が加わり、食害活動が加速化する結果となっている。

冬場の伊豆半島では磯に着いたヒジキやノリ(個人に寄る採捕は厳禁。釣具店で購入)をエサに使ったブダイ釣りが連綿と続けられている。地元の伝統釣法だが、近年は人気が低下しつつある

場合によっては漁業関係者よりも釣り人のほうが縁が深いこれらの生物だが、実は釣り人も彼らの大きな脅威とはなっていない。前項で挙げた魚類は食材としても、釣魚としても広い人気を集める存在ではないからだ。ゆえに釣獲による「間引き」も限定的。また、特定魚種に人気が集まる昨今の釣り業界の実情を考えても、釣りのターゲットとしてさらなる人気を集めることは考えにくい。

食用としての利用はほとんどないものの、イシダイの特エサとして釣り人からニーズのあるガンガゼ。長いトゲをハサミで切り、専用の道具を使ってハリに付けて使う

ガンガゼについては食用としてではなく、イシダイ狙いのエサとして活用されている。ただ、イシダイ釣りが下火になる冬場は需要が落ち込むため、安定的な活用が今後の課題とされている。

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オオモトユウ
編集者/ライター/フォトグラファー

スポーツウエアメーカー勤務、雑誌編集などを経てフリーライターに。好きなことを仕事に選び続けた結果、周囲からは「ラクをして生きている」と思われているのが悩み。四国、北海道については愛車で単独周遊済みなので、九州に照準を定めている。旅先での酒場巡りとノルウェー旅行の再開に思いを募らせる日々。

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