POSTED BY 北 秀昭掲載日 SEP 29TH, 2021

【トヨタの水素エンジン】次はレースを通じて海外から「水素の運搬」に挑戦

トヨタ自動車(以下、トヨタ)は、カーボンニュートラルな自動車社会の実現に向けて開発中の「水素エンジン」を搭載したカローラを、2021年9月18日・19日に行われた「スーパー耐久(5時間レース)」に投入しました。前回・前々回のレースに続き、トヨタの代表取締役社長であり、日本自動車工業会会長・豊田章男氏が、レーシングドライバーとして参戦。3度目となる今回のレースでは、川崎重工などの各企業がトヨタに賛同・協力し、海外から水素を「はこぶ」ことに挑戦したことでも話題を集めたのです。

目次

特に寒冷地でのEVによる長距離走行は非現実的か

中国やヨーロッパのメーカーが掲げる「自動車のEV化」は、人々が普段の足として利用する乗用車レベルでは、確かに実現可能かもしれません。しかし、長距離を走るトラックなどの物流業界への導入には、まだ解決すべき問題があるとも言われています。

トラックのEV化は、あまり議論されていないが・・・。 写真はトヨタと提携している日野製

EV化において、ガソリン車やディーゼルエンジン車よりも航続距離が短くなりがちとみる人も多いのが事実です。また、重量物を運搬するトラックの場合は、乗用車よりも大きな電力が必要となります。つまり、EV化したトラックは、乗用車よりもさらに巨大なバッテリーを搭載する必要がるというわけなのです。

また忘れてはいけないのが、バッテリーは気温が下がるほど性能が低下することです。例えば、運行中に大雪による渋滞に巻き込まれた場合。低温下においてバッテリー電力の消耗とともに車内の気温を保つことが難しくなり、ドライバーの生命維持に直接影響を与える状況を生み出してしまう恐れもあるのです。

つまり現状では、寒冷地などを走る長距離トラックはEV化には向いていないと考えるのも自然かもしれません。この事実は、これまで多くの自動車専門家や自動車評論家、また現場で働く長距離トラックドライバーも唱えているのです。

トヨタの水素エンジン推進は、将来の長距離トラック需要獲得の「序章」か

そこで注目されているのが、トヨタが推進している水素エンジンの開発だというわけです。トヨタは、「100万人の雇用を守るため、水素エンジンを推進」と表明していますが、この発言からも「EVだけでは物流業界を賄いきれない」という現実にいち早く気付いていたことが読み取れるのではないでしょうか(現時点では正式に言及していませんが)。

アマゾンなどのオンラインショッピングの普及もあり、長距離トラックの活躍の場はこれからも広がり続けることは想像に難くありません。今後、物流業界におけるCO2削減は、トヨタにしか実現できない水素エンジンの実用化しか道はないようにも思われます。

そのなかにあって、トヨタによる「レース実験」は、将来を見据えた「物流業界への仕込みであり序曲」であると、筆者は予感せずにはいられません。

「水素エンジンのカローラ」が5時間耐久レースで完走

トヨタが水素エンジン実験の場の1つとして選んだのが、サーキットでの自動車レースです。トヨタの代表取締役社長・豊田章男氏は、レーシングドライバー「モリゾウ」として自らレース(スーパー耐久シリーズ2021)に参戦。水素エンジン車の実用化に向け、奮闘しています。

サーキットを走る、水素エンジン搭載のカローラ

参戦1回目の富士スピードウェイ大会(24時間耐久)、2回目のオートポリス大会(5時間耐久)に続き、3回目となる2021年9月18日・19日に行われた鈴鹿サーキット大会(5時間レース)でも、トヨタの水素エンジン搭載車(カローラ)は、見事完走を果たしました。

このなかでトヨタは、富士スピードウェイでは「水素をつかう」、オートポリスでは「水素をつくる」、鈴鹿サーキットでは「水素をはこぶ」をテーマに定め、着々と実証実験を繰り返してきたのです。

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川崎重工などがトヨタの挑戦に賛同

これらのトヨタによるチャレンジに賛同し、さまざまな企業が業界の枠を超えて集結しているのも見逃せないポイントです。川崎重工業株式会社(以下、川崎重工)、岩谷産業株式会社(以下、岩谷産業)、電源開発株式会社(以下、J-POWER)の3社が連携し、オーストラリア産の褐炭由来の水素を運搬し、水素レース車両に使用するというものでした。

また、バイオ燃料を使用するトラックや、FC小型トラックの使用により、日本で水素を運ぶ際に発生するCO2を低減し、クリーンな水素社会の実現にもチャレンジしているのです。

水素エンジンは走行時に排出するのは水蒸気のみ(微量のエンジンオイル燃焼分を除く)。電気自動車(EV)と同じくCO2の発生はありません

今回のメイン課題は「水素をはこぶ」

トヨタの挑戦その1「海外からはこぶ」

今回のトヨタのレースにおいて、燃料となる水素を「はこぶ」ことに協力した企業の1つが川崎重工です。バイクメーカーとしても人気の川崎重工は、30年以上前にロケット燃料用水素貯蔵タンクを建造して以来、水素に関連する技術を磨いてきました。

川崎重工「すいそ ふろんてぃあ」 提供:HySTRA

2016年には、岩谷産業やJ-POWERなどと技術研究組合「HySTRA」を設立し、採掘量が多く、安価に取得できるオーストラリアの褐炭から水素を作り、日本に運搬する取り組みを計画。2021年度中には、川崎重工の水素関連技術と造船技術を組み合わせて建造した、世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」でオーストラリアから日本に水素を運ぶ実証を遂行することになっているのです。

川崎重工はこの実証において、水素を「はこぶ」だけではなく、水素を液体にして「ためる」ことにもチャレンジするといいます。また、2020年代半ばには、1度に1万トンの水素を運ぶことができる大型の液化水素運搬船も建造。2030年には、本格的な商用サプライチェーンとして、22万5千トンの水素を海外から運ぶ予定です。

日本は2030年に約300万トン、2050年に約2,000万トンの水素導入拡大を目標としています。この目標達成のためには、国内だけでなく、海外から大規模な水素調達を進めていく必要があるというわけです。

今回の自動車レース「スーパー耐久シリーズ2021 鈴鹿大会」では、海外からの水素調達の第一歩として、川崎重工、岩谷産業、J-POWERが試験的に、オーストラリアから空輸で運んだ水素の一部を水素エンジン車に供給。3社とトヨタは、この水素を実際にレースで使用することで、「はこぶ」「つかう」の具体的な将来図を、現場での取り組みを通じて共有したのでした。

川崎重工 大型液化水素運搬船 提供:川崎重工

さらに、2022年スーパー耐久レースでは、「すいそふろんてぃあ」で運んだ水素を使用することも検討しているそうです。2025年代半ばには、大型の液化水素運搬船(上写真)が運ぶ水素をトヨタが使用することで、水素社会実現に向けた取り組みを進めていく予定です。

トヨタの挑戦その2「国内ではこぶ」

今回のレースでは、オーストラリアから運ばれた褐炭由来の水素と、福島県浪江町(FH2R)で製造されたグリーン水素の2種類を、水素エンジン車に使用しました。オーストラリア産の水素は、「Commercial Japan Partnership Technologies」(以下、CJPT)が取り組む小型FCトラックで、また、福島県浪江町で製造されたグリーン水素は、トヨタ輸送のバイオ燃料トラックで、それぞれ鈴鹿サーキットまで運搬。海外から「はこぶ」に加え、国内で「はこぶ」選択肢を拡げることで、水素社会の充実化を実験・検証しました。

水素エンジン車(カローラ)はガソリン車と同等に

市販のカローラをベースに水素を燃焼させるシステムを導入

水素エンジン車は、「水素エンジン」の開発スピードを上げることを目的に、2021年は「富士SUPER TEC 24時間レース」と「スーパー耐久レース in オートポリス」に参戦。オートポリスでのレースからの約1カ月半で、トヨタは車両のさらなる改良を進めてきました。

具体的には、出力をガソリンエンジンと同等のレベルまで向上。また、燃料を車両の両サイドから充填できるように改良し、約3分から約2分と、充填作業時間の短縮も実現されています。

また、開発現場で新たにコネクティッドシステムを導入し、より高精度のデータを大量かつ高速で収集することも可能にされています。トヨタでは、モータースポーツの厳しい環境下でコネクティッド技術を進化。この取り組みで得られた経験を、今後の車両製造やサービスの向上に活かしていきたいと表明しています。

トヨタは「富士SUPER TEC 24時間レース」に参戦以来、これらのように実際に現場で行動することで、水素エンジン車に関する多くの課題をすばやく発見し解決する動きを行っています。今回のレースでも、多くの課題が表面化。これらの解決に向け、トヨタ及び提携企業は今後も業界の枠を超えて、幅広く連携していく模様です。

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北秀昭
編集者/ライター

神戸~東京築地~横浜~兵庫姫路~大阪京橋育ち。瓦敷き職人助手、空手師範代助手、ダスキ〇のお掃除部隊等に従事しながら高校・大学を卒業後、旅行グルメの編プロを経て、車やバイクに特化した出版社に勤務。バイク専門サイト「4ミニ.net」運営。 https://4-mini.net/

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