POSTED BY 北 秀昭掲載日 NOV 24TH, 2021

トヨタに続く「マツダ・スバル・ヤマハ」が挑戦開始した水素エンジンの可能性

カーボンニュートラルな暮らしの実現に向けて、電気自動車(EV)のもうひとつの選択肢としてトヨタ独自の取り組みとして進められているのが、水素エンジンの実用化があります。このようなトヨタの調整に賛同し、川崎、岩谷産業、電源開発(J-POWER)が連携したことも広く知られていますよね。これに続き、マツダ、スバル、ヤマハも、新たに水素エンジンの実用化推進を発表し、話題を呼んでいるのです。

目次

原発稼働に大きなリスクを抱える「日本の課題」は?

2021年10月31~11月12日、イギリスでCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)が開催されました。同会議には、日本の代表として岸田総理大臣も出席していたことは皆さんもご存じですよね。

この会議において、火力発電で石炭を大量消費している日本は、温暖化対策に消極的だった国に向けた「化石賞(まだ化石燃料を大量に使っているの?という皮肉を込めたネーミング)」を与えられてしまいました。

2021年現在、日本における火力発電の比率は75%。このように火力発電に頼る大きな理由は、原子力発電を抑制していることもあげられます。2011年の東日本大震災による福島第一原子力発電所での事故がきっかけとなり、原発推進論と原発廃止論が二極化。その結果もあり、石炭による火力発電の割合が増加しているのです。

火山の多い“地震列島”の日本。写真はイメージです

また、火山の多い日本では、ヨーロッパなどと比べても地震によるダメージを負うリスクが大きいことも、原子力発電の稼働にネガティブになりがちである要因のひとつとも言えそうです。

世界では電動化(EV)が進むが・・・

400万円台で販売されているテスラの「モデル3」

カーボンニュートラルの実現に向け、世界(特に中国や欧州)の自動車業界は電動化(EV)を推進しています。しかし、前述の通り火力発電に大きく頼っている日本では「すべての自動車を電動」にすることは実現的ではありませんよね。電気自動車を走らせるために、火力発電による二酸化炭素排出量を増やしてしまっては、せっかくのゼロエミッションな取り組みが薄れてしまいます。

とはいえ、地震の多い日本でこれ以上、原子力発電所を増やしてもいいのでしょうか? これは意見の分かれるところです。

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日本は水素でカーボンニュートラルを目指す

水素エンジンでは、微量のエンジンオイル燃焼分を除き走行時に出るのは水蒸気=水のみ。電気自動車(EV)と同じく、CO2の発生はない

ハイブリッドを含む内燃機関(ガソリンエンジン)を使いつつ、徐々に電動化を進めていくことが必要ではないか? この日本型の考えを元に、トヨタが独自に開発を進めているのが、内燃機関を使った「水素エンジン」の実用化です。

同社はこれまでサーキットを実験場として、水素エンジンに関するさまざまな挑戦を続けてきました。そんなトヨタのチャレンジに賛同し、カワサキ(川崎重工業)、岩谷産業、電源開発(J-POWER)も連携しています。

5社が燃料選択肢を広げる挑戦を発表

また、新たに「マツダ」、「スバル」、「ヤマハ」の3社が、カーボンニュートラル実現に向け、内燃機関を活用した燃料の選択肢を広げる=水素エンジン実用化の挑戦を正式に発表しました。

  • スバル、トヨタ、マツダが、カーボンニュートラル燃料を使用し、スーパー耐久シリーズに参戦
  • カワサキ(川崎重工)とヤマハ発動機が、二輪車等での水素エンジン開発の共同研究の可能性について検討を開始
  • トヨタの水素エンジン車両が「スーパー耐久レース in 岡山」に参戦。新たに福岡市から水素を供給

また、燃料を「つくる」「はこぶ」「つかう」選択肢をさらに広げていくために、事項で説明する、「カーボンニュートラル燃料を活用したレースへの参戦」、「二輪車等での水素エンジン活用の検討」、「水素エンジンでのレース参戦継続」などの取り組みにも挑戦していきます。

カーボンニュートラル燃料を活用したレースへの参戦

SKYACTIV-D1.5でレースに挑戦(マツダ)

MAZDA SPIRIT RACING Bio concept DEMIO

マツダはカーボンニュートラル実現に向けて、ユーザーにさまざまな選択肢を提供することが大切であると考えています。

そのために、従来のHEVモデルやディーゼルエンジンモデル、BEVモデルだけでなく、今後はPHEVモデルを投入し、パワートレインのラインアップを拡大するとともに、志をともにするパートナーとバイオ燃料に代表される再生可能燃料への取り組みを推進させるといいます。

今回は、ユーグレナから供給を受ける100%バイオ由来のディーゼル燃料を使用するSKYACTIV-D 1.5(ディーゼルエンジン)を搭載した「MAZDA SPIRIT RACING Bio concept DEMIO」で、スーパー耐久レース in 岡山のST-Qクラスに参戦。今後もさまざまな環境や条件で実証実験を行い、次世代バイオディーゼル燃料の普及拡大に貢献していくとしています。

バイオマス由来の合成燃料を使用し、来年のスーパー耐久シリーズに挑戦(スバル、トヨタ)

水素エンジンを搭載したトヨタ・カローラ(SUZUKA S耐での模様)

スバルとトヨタは、カーボンニュートラル実現を目指し、2022年に世界各地での発売を予定しているBEV、SUBARU「SOLTERRA(ソルテラ)」と、トヨタ「bZ4X(ビーズィーフォーエックス)」など、電動化を含めた対応を推進。

また今回、新たな選択肢を検討するため、2022年シーズンのスーパー耐久シリーズのST-Qクラスに、バイオマスを由来とした合成燃料を使用する新たな車両を投入し実証実験を実施。SUBARUはSUBARU BRZをベースとした車両、トヨタはGR86をベースとした車両での参戦を予定しています。

二輪車等での水素エンジン活用の検討

共同研究の可能性を検討(川崎重工、ヤマハ発動機)

カワサキ(川崎重工)は、2010年から次世代エネルギーとして水素に着目し、社会生活に必要なサプライチェーン全体(「つくる」「はこぶ」「つかう」)にわたる技術開発を進めてきました。

現在、オーストラリアの褐炭からつくった大量かつ安価な水素を日本へ「はこぶ」ための実証試験を開始し、2021年度中には川崎重工が建造した世界初の液化水素運搬船「すいそふろんてぃあ」による水素の輸送が予定されています。

また、「つかう」では、2018年に世界で初めて成功した市街地での水素100%を燃料とするガスタービン発電技術で培った水素燃焼技術をベースに、航空機用、船舶用、二輪車用といった陸・海・空のモビリティ向け水素燃料エンジンの開発も進めています。

ヤマハは、二輪車やROV(四輪バギー)等、自社製品への搭載を視野に入れた水素エンジンの技術開発を推進。これらの開発を加速させるために、新規の設備導入の準備と、社内における開発体制の強化を図っているところです。

また、カワサキとヤマハは、二輪車への搭載を視野に入れた水素エンジンの共同研究について検討も開始しているそうです。今後はホンダやスズキも加わり、二輪車における内燃機関を活用したカーボンニュートラル実現への可能性を探っていく予定だとか。協調と競争を分けるべく、協調領域と協働研究の枠組みを明確にした上で推進していきくそうです。

水素エンジンでのレース参戦継続

スーパー耐久レース in 岡山への参戦(トヨタ、ヤマハ)

トヨタは2016年から、ヤマハ、デンソーなどの関係者とともに、水素エンジンの開発に取り組み、「富士SUPER TEC 24時間レース」、「スーパー耐久レース in オートポリス」、「SUZUKA S耐」の3戦に水素エンジン車を投入してきました。また、「スーパー耐久レース in 岡山」でも、引き続き「ORC ROOKIE Racing」の参戦車両として投入し、トヨタの代表取締役である豊田章男が、ドライバー「モリゾウ」としてレースに参戦する予定とされています。

「つくる」の挑戦とは?

福岡市の水素製造設備
  • 過去3戦で水素の供給を受けた企業・自治体に加え、新たに福岡市と連携
  • 水素を「つくる」新たな挑戦として、福岡市が製造する下水バイオガス由来水素を水素エンジンに供給
  • 福岡市は2015年から、市民の生活排水である下水から水素を作り実用化する世界初の取り組みに挑戦
  • 福岡市中部水処理センターで下水処理をする際に発生するバイオガスから、CO2を増やさないグリーン水素を製造
  • 水素製造能力は、3,300Nm3/日(MIRAI約60台分/日 1台あたり55Nm3として換算)
  • FCトラックやFCバイク、FC電源車にグリーン水素を供給するなど、企業と共に実証実験を実施

水素を供給する企業・自治体と水素の種類

大林組地熱発電由来水素
トヨタ自動車九州太陽光発電由来水素
福岡市下水バイオガス由来水素
福島県浪江町(FH2R)太陽光発電由来水素

「はこぶ」の挑戦をチェック

写真はイメージです
  • ユーグレナの次世代バイオ燃料をトヨタ輸送の大型トラックに使用し、水素を運搬
  • トヨタと「Commercial Japan Partnership Technologies(CJPT)」が連携し、「SUZUKA S耐」で分かったFC小型トラックでの運搬効率の課題解決に向けて検討を開始

課題1:運搬用の金属タンクが重く、小型トラックに積める本数が限られる
課題2:金属タンクの許容圧力の関係で、1本あたりの水素充填量が限られる

解決に向け、MIRAIで培った軽量・高圧で水素運搬可能な樹脂ライナー製CFRPタンク技術を活用。また、従来の金属タンクと比べ、大幅な運送効率アップの目途が付き、今後実際に水素を運搬できるよう開発・検討を推進。

「つかう」の挑戦は?

  • 過去3戦を通して、モータースポーツの厳しい環境で鍛えることでスピーディな水素エンジンの開発を推進
  • 初参戦の「富士SUPER TEC 24時間レース」時から毎回改善を重ね、今回までの約6カ月間で、出力を約20%トルクを約30%向上、「SUZUKA S耐」からの約2カ月では出力・トルクを5~10%向上させ、ガソリンエンジン以上の性能を実現
  • 燃費水準は維持(仮に「富士SUPER TEC 24時間レース」時と同じ出力に揃えた場合、約20%の燃費向上が可能)
  • 「SUZUKA S耐」の前に開発現場で新たに導入したコネクティッドシステムを、より多くのデータを処理・解析できるように改良。テスト走行で活用することで開発スピードがさらに向上
  • 昇圧率を上昇させ、水素の充填時間を2分以内(※)に短縮

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北秀昭
編集者/ライター

神戸~東京築地~横浜~兵庫姫路~大阪京橋育ち。瓦敷き職人助手、空手師範代助手、ダスキ〇のお掃除部隊等に従事しながら高校・大学を卒業後、旅行グルメの編プロを経て、車やバイクに特化した出版社に勤務。バイク専門サイト「4ミニ.net」運営。 https://4-mini.net/

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